ノンテクニカルサマリー

緑化度と夜間光は人間の幸福感に正の影響を与える - 機械学習による実証的分析

執筆者 李 潮(九州大学)/馬奈木 俊介(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 人工知能のより望ましい社会受容のための制度設計
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「人工知能のより望ましい社会受容のための制度設計」プロジェクト

生活環境における緑化度(NDVI)が人間の幸福に正の影響を与えることは知られている。夜間光(NTL)は地域の社会経済的地位と開発レベルを示す指標として広く使われている。開発レベルや経済状態が高ければ、より多くの機会や高い所得につながり、最終的には人間の幸福を高めることになる。しかし、緑地やNTLの単純な増加が常にポジティブな結果を生むかについては、まだ結論が出ていない。本研究では、ランダムフォレスト法を用いて、人間の幸福度と緑化度やNTLの複雑な関係を示す。住宅地は豊富な自然資源から遠く離れているため、主要な住民は生活環境においてより多くの緑を欲している可能性がある。さらに、NTLに代表される高い都市開発密度は、大都市圏の人間の幸福に悪影響を及ぼしている。したがって、適度な開発強度を保つことは、持続可能な社会を実現し、人間の幸福度を向上させるために有効な方法である。

ランダムフォレストに代表される機械学習法は、あまり多くの事前仮定を置かずにデータのモデルを構築する。 ランダムフォレストとは、数百の決定木の集合体を基に出力変数を予測する手法であり、各決定木は多くの二項対立の判断の分岐で構成されている。ランダムフォレスト法は、ノンパラメトリックな手法であるため、非線形な関係を把握することが可能である。したがって、幸福度、NTL、緑度の間の複雑な関係を正確に図示することができる。

ランダムフォレストの精度は81.83%であるのに対し、回帰モデルであるOLSは26.83%にとどまっている。図1は、NDVI、NTL、所得が人間の幸福度に及ぼす累積局所効果(ALE)を示したものである。緑地が10.91%~32.99%の環境(NDVI∈[10.91%,32.99%])では、幸福度が高くなる可能性が高いことがわかる。NDVI値の増加が人間の幸福度に及ぼす影響は、NDVI値が16.97%に達するまで明らかに正となる。NTLが0〜17.92nW/cm2・srの環境では、人々の幸福度は平均レベルより高い(NTLの対数∈[0,2.94])。NTLの対数が1.03未満の場合、NTLの増加が人間の幸福に及ぼす影響は正である。しかし、それ以上増加すると、その効果はマイナスになる。図1に示すように、分析した範囲では、所得の増加が人間の幸福に与える影響は常にプラスである。個人の年収が450万円を超えると、ALEがプラスになり、平均レベルよりも生活満足度が高くなる傾向がある(図1.c)。

図1: NDVI、NTL、および所得のALE
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図1: NDVI、NTL、および所得のALE

図2、図3はNDVIとNTLのグリッド別平均貨幣価値を示したものである。グリッドのサイズは 0.25° × 0.25° であり、おおよそ 30km × 30km である。貨幣価値がプラスであれば、より多くの緑(NDVI)や夜間光(NTL)が望まれ、マイナスであればその逆の結果となる。日本の多くの地域で、人々はより多くの緑を欲している。特に東京(13番)、大阪(27番)、名古屋(23番)など大都市圏で顕著である。図3は、NTLのグリッド別平均貨幣価値を示したものである。東京(13番)、大阪(27番)、名古屋(23番)、北海道札幌(1番)などの大都市圏では、マイナス値が出ており、NTLが人間の幸福に負担をかけていることがわかる。

図2: NDVIの平均貨幣価値の分布図
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図2: NDVIの平均貨幣価値の分布図
図3: NTLの平均貨幣価値の分布図
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図3: NTLの平均貨幣価値の分布図

現状を考慮せず、生活環境における緑度やNTLを単純に増加させても、人間の幸福度は必ずしも向上しない。この平均的な貨幣価値によれば、日本のほとんどの地域で緑地やNTLが不足していることになる。日本には緑地が不足しているわけではないが、緑地が住宅地から離れているため、緑地が不足しているように見えるのである。本研究の結果は、人間の幸福度と緑地およびNTLの間の高精度な関係を示し、政府や一般市民により多くの情報を提供している。この必要不可欠な情報は、人間の幸福度を向上させるための持続可能な土地利用・開発政策の立案に役立つものである。