ノンテクニカルサマリー

企業レベルデータに基づく都道府県産業ネットワークの類似性と接続性

執筆者 後藤 弘光(金沢学院大学)/相馬 亘(立正大学)
研究プロジェクト COVID-19禍のもとのマクロ経済:その実証的分析と復興への道程
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「COVID-19禍のもとのマクロ経済:その実証的分析と復興への道程」プロジェクト

都道府県内外の経済波及効果を踏まえた政策立案において、都道府県内の産業構造や都道府県内外の産業間の接続性を理解することは重要である。これらは産業連関表による分析で理解が進められてきたが、5年の作成期間を要するためリアルタイム性が乏しく、各都道府県での産業分類数が標準化されていないため統一的な分析が困難であるなどの課題がある。本研究は、1年毎に更新される日本国内100万社の企業間取引情報を用いてこの課題を克服し、ネットワーク科学の観点から、都道府県単位の産業構造の理解を深めることに寄与するものである。

本研究では、都道府県単位の産業構造を、各都道府県の産業間の取引数を重みとするネットワークとして表現する。このネットワークのメゾスケールの特徴量を用いたクラスタリング分析によって、県内の産業構造のパターンを抽出することで都道府県を分類した。また、ネットワークに対するコミュニティ抽出により、同一コミュニティに属する接続性の高い都道府県群を検出した。ここでの都道府県間の類似性とは、単に業種割合で測られる特化係数などの類似度だけではなく、ネットワーク的な業種間の取引傾向の類似度が反映されたものである。また、都道府県間の接続性も同様に、都道府県間の取引数だけで決定されるものではなく、産業間取引のフローの循環によって結び付きの強い都道府県群が抽出されている。ネットワーク構造の類似性が高い都道府県同士は、同様の経済政策が有効である可能性がある。また、ネットワークにおいてコミュニティを形成する都道府県同士は、経済波及効果の影響を受けやすく、政策立案の協働の必要性が高いと考えられる。

主な結果は以下のようにまとめられる。

  • 都道府県内の産業構造は、3つのパターンに分類される傾向を持つ。(a)東京、大阪、愛知などの3大都市圏。(b)大都市圏周辺の県。(c)北海道や九州地方など中心都市から離れた地方。このパターンは都市化の度合いに関連していることが示唆される。
  • 都道府県間の産業の接続性は、地理的な隣接性に強く影響を受けている。本州、九州・沖縄、四国でコミュニティが形成されており、その下位コミュニティには、隣接する都道府県が同じコミュニティに属する傾向が観測された。また、2012年から2015年にかけて東北コミュニティ(青森・岩手・宮城)が関東圏のコミュニティに吸収され、2016年に東北・関東の2つのコミュニティに戻る様子が観測された。これらは東日本大震災による東北圏に属する企業間の取引数が一時的に減少した結果が可視化されていると考えられる。

ディスカッション・ペーパーでは、2011年度都道府県間産業連関表に基づく同様の解析手法を用いた結果と比較し、得られた結果の妥当性及び、企業レベルデータによる産業構造の理解に対する相補性を検討している。

図:2012年から2016年にかけてのクラスタリング結果の推移
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図:2012年から2016年にかけてのクラスタリング結果の推移
上部:県内産業構造の類似性の⾼さでクラスタリングした結果
下部:都道府県間の産業間の接続性の強さでクラスタリングした結果