ノンテクニカルサマリー

人種が移民に対する態度にどのような影響を与えるのか?日本における調査実験からのエビデンス

執筆者 五十嵐 彰(大阪大学)/三輪 洋文(学習院大学)/尾野 嘉邦(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して」プロジェクト

アメリカでは、アフリカ系アメリカ人が経済的・政治的に非常に不利な立場に置かれるなど、人種が集団間の関係を形成する上で重要な役割を果たしている。しかし、アメリカ以外の文脈で人種が集団間の態度形成にどのような影響を与えるかについて、ほとんど知られていない。アメリカを拠点とする研究者たちは、アメリカ以外の文脈において人種の効果が十分検討されてこなかったことに警鐘を鳴らし、さらなる研究を促している。ただ、その背景には人種がアメリカ以外の文脈でも同様に意味のある変数として働き得るという前提がある。

それでは、アメリカ以外の国において、人種は集団間関係を形成する上で何らかの影響を与えるのだろうか。先行研究に基づけば、2つの可能性が考えられる。1つ目は、アメリカ以外の国でも、人々はアメリカの人種ヒエラルキーに従っているという可能性である。アメリカは経済的・文化的・政治的に非常に強い影響力を他国に及ぼしており、アメリカにおいて形成された規範が、他国にも伝播し、アメリカ以外の文脈でもアメリカと同様な人種ヒエラルキーに従って、人々の態度が形成されているというものである。2つ目の可能性は、それとは反対に、アメリカの人種ヒエラルキーは、人々の態度形成に何ら影響していないというものである。それぞれの社会が独自の歴史と制度によって独自の規範を発展させており、アメリカ以外の文脈では、人種ヒエラルキーが人々の間に共有されていないという可能性である。

これら相反する可能性について検証するために、白人以外の人種がマジョリティである日本を研究対象として選び、サーベイ実験により人種が操作された仮想的な移民に対する人々の態度を調査した。オンラインで実施した実験では、日本人の実験参加者を対象に、無作為に形成したアメリカから来日する2人の移民のプロファイルを顔写真とともに提示し、どちらの移民を受け入れるべきかを尋ねた。顔写真は、顔の魅力度や年齢の異なる白人、アフリカ系アメリカ人、アジア系アメリカ人のいずれかのものを用いた。

実験の結果、日本人はアメリカからの移民として、必ずしもアフリカ系よりも白人系を好むことはないことが明らかになった。むしろ、場合によっては、アフリカ系のほうを移民としてより好むという結果が出た(図1参照)。これらの結果は、先に提示した2つの可能性について、後者のほうを支持、つまり、アメリカで集団間意識を形成している人種的ヒエラルキーは、日本では必ずしも共有されていないということを示唆している。

図1:移民受け入れに関する日本人被験者の人種別選好度
図1:移民受け入れに関する日本人被験者の人種別選好度