ノンテクニカルサマリー

生産ネットワークは企業のサイズ分布にいかなる意味をもつか? 国内大規模データによる研究

執筆者 Corrado DI GULMI(シドニー工科大学 / オーストラリア国立大学 / 神戸大学)/藤原 義久(兵庫県立大学)
研究プロジェクト COVID-19禍のもとのマクロ経済:その実証的分析と復興への道程
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「COVID-19禍のもとのマクロ経済:その実証的分析と復興への道程」プロジェクト

最近の研究によると、ミクロレベルのショックは、景気循環をはじめとするマクロ経済の集計的なゆらぎに大きな影響をもたらす。特に企業レベルのミクロなショックは、企業や産業間の生産ネットワークと、裾野の長い企業サイズ分布の二つの性質によって、平均化されない。これら二つの性質はお互いに密接に関係している。本研究は、実証データならびにモデルとそのシミュレーションによって、この関係について明らかにするものである。

本研究は、需要ショックが生産ネットワークの下流から上流へ、すなわちサプライサイドへ伝播することを通して、企業の成長、ひいては企業サイズの分布にどのような影響があるのかを調べた。まず、生産ネットワークの上流・下流に関わるつながりの「蝶ネクタイ構造」(補注1)において、上流のサプライヤーはより小さなサイズの企業については成長のゆらぎがより大きいことを見出した。すなわち、上流側の企業についてはジブラ則(補注2)が破れている。一方で、下流にはより大きなサイズの企業が存在しており、企業のサイズ分布ではその裾野に位置している。われわれのモデルでは、下流側に生じる需要ショックが上流へと増幅することによって、このようなパターンが生じており、その増幅の度合いは生産ネットワークの構造と下流企業の価格支配力に依存する。さらに、ほぼ完全に階層的なネットワーク構造を仮定すると、結果として得られる企業サイズの裾野に見られるべき則はなくなってしまうことを見出した(図1を参照)。したがって、需要ショックは直接に下流企業の生産を減少させるだけでなく、生産ネットワークを通じて間接的に企業の成長とサイズ分布に集計的な影響を与えることを本論文は示す。

図1:企業サイズ(横軸)とサイズ群ごとの成長率の揺らぎ(縦軸)。生産ネットワークとモデルの仮定を変更した場合の主要な結果。左上部の結果が現実のものと近い。
図1:企業サイズ(横軸)とサイズ群ごとの成長率の揺らぎ(縦軸)。生産ネットワークとモデルの仮定を変更した場合の主要な結果。左上部の結果が現実のものと近い。

以下のポイントが政策への示唆としてあげられる。

  • 生産ネットワークの連結性がより高くなると、供給ショックに対しては堅牢性を高める側面はある一方で、需要ショックに対してはミクロレベルのショックを増大させる可能性がある。
  • 需要ショックは、直接的には下流側の企業の生産の減少、したがってGDPに反映されるだけではなく、間接的には企業のサイズ分布を変形させ、自明ではない効果をもたらす、という点で企業の成長とサイズ分布に集計的な影響を与える。

(補注1)生産ネットワークの「蝶ネクタイ構造」:ネットワークの大局的構造は、モノが流れ込むINの部分、流れが循環するGSCC(巨大強連結成分)の部分、流れ出るOUTの部分からなる。ここで、GSCCとはGiant Strongly Connected Componentの略。有向ネットワークにおいて、どのノードからもエッジの向きに従って進み、別のノードまで到達できる部分ネットワークをSCC(強連結成分)と呼び、GSCCはその中で最大の部分ネットワークを指す。インターネットなどに関するネットワークの多くは、INとOUTがGSCCから左右に遠くまで広がる「蝶ネクタイ構造」であることが知られている。

(補注2)企業成長の「ジブラ則」:企業サイズの成長率がサイズには統計的に依存しない、すなわち、比例または乗算的な確率過程として成長がよく表現できる経験則。大企業についてよく当てはまるが、中小企業については成り立たない。経済学者ジブラ(Robert Gibrat)の名前から。「比例効果の法則」(law of proportionate effect)とも呼ばれる。