ノンテクニカルサマリー

対内外国直接投資に対する個人の選好:コンジョイント・サーベイ実験からのエビデンス

執筆者 田中 鮎夢(リサーチアソシエイト)/伊藤 萬里(リサーチアソシエイト)/神事 直人(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「直接投資の効果と阻害要因、および政策変化の影響に関する研究」プロジェクト

研究の目的

貿易や移民に対する人々の態度についての研究は過去20年間で大きく進展したが、外国直接投資(FDI)に対する人々の態度についての研究は乏しい。世界第3位の経済規模を持つ日本の対内直接投資が、他の先進国に比べて著しく低いことはよく知られた事実である。しかし、その理由はまだ完全には解明されていない。外国資本に対する強い心理的抵抗が、対内FDIの阻害要因となっている可能性がある。私たちの研究は、調査実験を通じて対内FDIを阻害する要因を特定し、対内FDIを促進するための政策的含意を導き出すことを目的とした。

調査概要

本研究では、2021年6月15日から27日にかけて、調査会社を通じてオンライン調査を実施し、企業買収(M&A)という形態での対内直接投資に対する心理的抵抗感を調査し、定量的な分析を行った。調査対象者は、調査会社とそのパートナー企業に登録している日本全国の18歳から79歳までの男女である。調査対象者の性別、年齢、居住地域が、2015年の国勢調査の人口構成に近くなるように設計した。本調査の回答者数は2,423人である。なお、同時期に行なった別調査(回答者数計4,868名)の結果は、「なぜ人々は外国企業による買収に忌避の姿勢を示すのか?:個人の対内投資に関する選好調査を用いた実証分析」として既に公表している。

研究手法

外国企業による買収は、外国企業の国籍や買収される日本企業の特徴など、いくつかの属性において異なりうる。私たちの研究が採用したコンジョイント調査実験では、様々な属性の効果を同時に推定することができるため、買収プロジェクトの様々な属性と人々の反感との間の複雑な因果関係を分析することが可能である。具体的には、回答者に様々な属性を持つ仮想的な投資プロジェクトに対する賛否を問い、投資プロジェクトの属性(外国企業の国籍・投資対象など)はランダムに変化する形で調査を設計した。ランダム化は各回答者、各属性ごとに独立して行われる。ランダム化によって、どの属性が平均的に買収プロジェクトの魅力を因果的に増減させるかを定量的に把握することができる。私たちは、各属性値が結果としての選択や評価に与える相対的な影響を表す平均限界成分効果(AMCE)と呼ばれる因果効果を推定し、投資プロジェクトの属性の効果を定量化した。

分析結果

各回答者は、日本からの投資の受け入れ、投資元国、被買収企業の業績不振の理由、被買収企業の技術水準、被買収企業の所在地域、被買収企業の企業規模が異なる5つの投資案件について賛否を回答した。賛成されたプロジェクト数は合計で3,200件、反対されたプロジェクト数は8,915件であり、外国企業買収の全体的な賛成率は26.4%であった。図1は、各属性値に対する推定AMCEと95%信頼区間を描いたものであり、投資プロジェクトの属性が基準となるベースラインの属性から変化することで、外国企業による買収の賛成率がどのように変化するかを示している。

図1 外国企業による買収への賛成率の変化
図1 外国企業による買収への賛成率の変化

図1から、外国企業の国籍がFDIの選好に影響を与える重要な要因の一つであることがわかった。基準となる外国企業一般(ベースライン)に対して米国企業による買収には賛成率が高くなる傾向があるが、中国、韓国、ロシア企業による買収には賛成率が平均的に10%以上低くなる傾向がある。また、基準となる日本一般に比べて特に失業率が高い地域への対内投資には肯定的になる傾向が見られた。さらに、日本からの投資をあまり受け入れてこなかった国に比べて、日本からの投資を受け入れてきた国の企業による買収への賛成率はやや高くなる傾向があった。

結論と政策的考察

本研究からは、アメリカのような友好国やこれまで日本からの投資を受け入れてきた国からの対内投資を増やすことの方が国民の理解を得やすいことが示唆される。安全保障面と多国間の無差別原則との兼ね合いには留意しつつも、対内投資のさらなる促進には、一律に外資規制を強化するのではなく、経済連携協定や投資協定などを通して国民の理解を得やすい国や分野から対内M&A促進を図れないか検討が必要だろう。失業率が高い地域への対内M&Aには賛成率が上がる傾向も見られるため、特定地域を対内M&A特区として、対内投資規制の緩和を図ることが検討に値するものと考える。