ノンテクニカルサマリー

2000年代以降の法人税改革の影響-企業特殊的フォワードルッキング実効税率を用いた分析-

執筆者 馬場 康郎(三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社)/小林 庸平(コンサルティングフェロー)/佐藤 主光(ファカルティフェロー)
研究プロジェクト これからの法人に対する課税の方向性
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策評価プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「これからの法人に対する課税の方向性」プロジェクト

日本における法人税改革は、法人課税をより広く負担を分かち合う構造へと改革し、「稼ぐ力」のある企業等の税負担を軽減することで、企業に対して前向きな投資や賃上げが可能な体質への転換を促すことを目的として実施されてきた。そのため、今後の法人税の在り方を検討するにあたっては、これまで行われてきた法定税率の引き下げおよび課税ベースの拡大が、企業にどのような影響を与えたのか検証することは重要な意義を持っている。

企業レベルの法人実効税率を測定する手法は、バックワードルッキング実効税率を用いる方法と、フォワードルッキング実効税率を用いる方法の2つに大別できる。本稿では、フォワードルッキング実効税率は、仮説的な投資プロジェクトを想定して、そのプロジェクトが生み出す利潤がどの程度課税されるかを捉えたものである。フォワードルッキング実効税率を用いて、日本における2000年代以降の法人税改革がフォワードルッキング法人実効税率および企業行動に与えた影響を分析する。

分析対象期間中の法人税改革の動向を見ると、2007~2011年度、2012~2014年度、2015年度、2016~2017年度、2018年度の5期間に区分することができる(各期間中の法人税率等は一定)。この5期間のフォワードルッキング実効税率の変化を分析したところ、以下が導出された。

図1 平均実効税率の分布(2007~2018年度) 全企業
図1 平均実効税率の分布(2007~2018年度) 全企業

①平均実効税率は全体として下がりつつ、散らばりが小さくなっている
②限界実効税率はプラスの企業では全体として下がり、散らばりが小さくなっている
③平均実効税率・限界実効税率ともに企業規模が大きな企業、生産性が高い企業において、特に大きく引き下げられている傾向にある。

続いて、フォワードルッキング平均実効税率、フォワードルッキング限界実効税率の変化が企業行動に与えた影響を、2012~2014年度、2015~2017年度の2つの期間をケーススタディとして分析した。

2012年度に行われた税制改革によって、フォワードルッキング平均実効税率が下がった企業においては、雇用・投資を増加させている傾向がみられた。また、雇用よりも投資に対する影響が大きく、かつ資本金1億円超の大企業よりも資本金1億円以下の中小企業に対する影響の方が大きいことが示唆された。一方、フォワードルッキング限界実効税率については、資本金1億円超の大企業においては有意でなかった。

2015~2017年度に行われた税制改革によって、フォワードルッキング平均実効税率が下がった企業の中で、資本金1億円以下の中小企業においては雇用・投資を増加させている傾向がみられた。また、雇用よりも投資に対する影響が大きいことが示唆された。一方、資本金1億円超の大企業においては、有意な結果ではなく、平均実効税率の変化が雇用・投資に与えた影響は限定的であったものと考えられる。一方、フォワードルッキング限界実効税率については、雇用に与える効果は有意ではなく、資本金1億円超の大企業においてはいずれも有意でなかった。

これらの結果から、2000年代以降に実施された法人税改革は、全体として平均実効税率を引き下げるとともに、企業間の実効税率の格差を縮小させたことが分かった。特に、企業規模の大きな企業や法人税改革前に生産性の高かった企業において、平均実効税率や限界実効税率が大きく引き下げられ、企業間の実効税率の格差縮小につながっていることが分かった。また、それによって雇用や投資、特に投資にプラスの影響を及ぼしたことが示唆された。これは、法人税改革の目的と整合的であると考えられる。

ただし、外形標準課税が拡大された大企業に着目すると、実効税率の変化が雇用や投資に与えた効果は限定的であった可能性があったことから、改革の評価にあたってはその要因について更なる分析が必要と考えられる。