執筆者 | 徳井 丞次 (ファカルティフェロー)/落合 勝昭 (日本経済研究センター)/川崎 一泰 (中央大学)/宮川 努 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域間の分業と生産性 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「地域別・産業別データベースの拡充と分析-地域間の分業と生産性」プロジェクト
世界的な規模での新型コロナウイルスの感染拡大は、経済活動の制限をもたらし、その水準を大きく落ち込ませた。2020年第二四半期のGDP速報値が前期比30%近い落ち込みになったことを知って、ショックを受けた人も多いのではないだろうか。しかし、今後を冷静に見通し、感染対策と経済活動のバランスを判断していくには、コロナ禍の下で同時に起こったさまざまなことを要因分解し、1つ1つの要因の重みを見極めておく必要がある。
感染対策のための経済活動制限として最も記憶に残っているのは、2020年4月から5月にかけてとられた政府による緊急事態宣言下での外出自粛要請であろう。さらに、日本を含めた各国が感染対策のために海外からの入国を拒否する措置を取り始めるなかで、国際航空便の運航も停止し、2月頃まで国内の観光地を賑わせていたインバウンド観光客をめっきり見かけなくなったことも印象深い。しかし、この時期には同時に、世界貿易がコロナ禍の下で急速に縮小しており、輸出の減少を通じて製造業の活動水準も急速に悪化していった。
われわれは都道府県間産業連関表を使って、2020年春から夏にかけての経済活動の落ち込みが地域と産業にどのように波及していったかを要因分解した。図は、その結果を全国の全産業に集計し、付加価値レベルの変化率に変換して9月までの推移を追ったものである。3月から5月にかけて急激に経済活動水準が落ち込み、その後緩やかな回復をみせている。この図では、こうした変化を、内需(消費)由来のものと、外需(輸出)由来のものに分けて示している。外出自粛や、飲食店などの休業などは身近で目につきやすいが、それに匹敵する大きな影響を、同時期に起こった輸出の急速な縮小が産業連関を通じてもたらしていたことにも注意が必要である。
6月以降は輸出が回復をみせ、それ以降の経済活動水準復元の原動力となった。その一方で、内需の回復ははかばかしくなく、引き続き低迷要因となっている。その内需要因を、図では域内効果と域外効果に分けて示している。両者を比較すると、概ね域内効果が域外効果を上回って主な変動要因となっていることが分かる。われわれの分析では、「家計調査」などから消費に対する初期のインパクトを産業別、都道府県別に捉えて、その産業連関による波及を追っているのだが、ある都道府県に発したインパクトが、産業連関を通じて同じ都道府県に波及してくるのを域内効果、産業連関を通じて他の都道府県に波及していくのを域外効果と呼んでいる。
コロナ禍の内需要因のインパクトが同一都道府県の域内効果に留まる率が大きいのは何故だろうか。それはコロナ禍の自粛で売り上げに打撃を受けた分野が外食などのサービス業に集中しているからである。その一方で、家電製品などは「巣ごもり需要」のためむしろ売れ行き好調である。製造業が部品から組み立てまで複雑な産業連関を構成し、その地理的範囲も広範であるのに対して、サービス業の産業連関は薄くその地理的範囲も限られている。このため、今回のコロナ禍で主に打撃を受けたサービス業の産業連関波及範囲はその多くが同一都道府県内に留まっているのである。
われわれの分析は、都道府県ごとの初期インパクトの積み上げ計算になっているので、単一都道府県の初期インパクトの効果を分解して取り出すこともできる。東京都と大阪府についてこの抽出を行ってみた。東京都での自粛の影響を最も受けるのは隣の神奈川県だが、その規模は東京都の10分の1程度に留まる。また、大阪府の自粛の影響を最も受けるのはやはり隣接する和歌山県だが、その規模は大阪府の5分の1程度である。こうした結果は、感染対策と経済活動の秤量を地域ごとに行うことの合理性を裏付けるものである。
ただし、この議論の唯一の例外は、人の移動を伴って消費活動が行われる輸送や宿泊など旅行関係分野で、その性質上から産業連関とは別の意味の地域間波及がある。インバウンド需要の「消滅」が1年間継続するとGDPの0.1%から0.2%程度の影響を持つ規模となり、厳しい状況が続きそうである。