ノンテクニカルサマリー

日本におけるジェンダーステレオタイプ

執筆者 遠藤 勇哉 (東北大学)/尾野 嘉邦 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

融合領域プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「先端技術と民主主義:技術の進展と人間社会の共生を目指して」プロジェクト

日本は政治分野におけるジェンダーギャップが世界で最も大きい国の1つである。衆議院における女性政治家の比率は10.2%で、世界193カ国の平均24.3%を大きく下回っている。日本において「女性活躍の推進」が成長戦略として位置付けられているにもかかわらず、なぜ女性議員の数が少ないのだろうか。議員の割合において性差が生じる理由の1つとして、有権者がジェンダーステレオタイプを持ち、女性候補者が不利になっていることが挙げられる。

日本政治において、有権者がどのようなジェンダーステレオタイプを持っているのかについての実証的な研究はほとんど存在しない。しかし、近年日本では、アメリカの有権者と同様のステレオタイプが存在することを前提に、ジェンダーステレオタイプが有権者の行動に与える影響を検証する実験研究が行われている。実験結果の妥当性を考える上で、その前提を検証する必要がある。そこで、日本政治の文脈におけるジェンダーステレオタイプを明らかにするため、2020年3月に日本の有権者約3,000人を対象に、アメリカで行われた研究と同じ質問と質問形式を用いた調査を実施した。

図1に示した結果から、日本の有権者も、アメリカの有権者と同様に、政策領域においてジェンダーステレオタイプを持っていることが判明した。具体的には、女性政治家の方が男性政治家よりも、子育て、少子化、教育、社会福祉、医療などの問題を上手に処理できると考えている。一方、男性政治家は女性政治家に比べて、移民問題、財政赤字、犯罪、経済、外交、安全保障などの問題に強いと考えている。次に政治家の個人特性における結果を示した図2によると、個人特性においても政策領域と同様に日本の有権者はアメリカの有権者と非常によく似たジェンダーステレオタイプを持っていることが明らかになった。日本の有権者は、男性政治家よりも女性政治家の方が、思いやりがあり、誠実で、知性的であると認識している。一方、男性政治家は、女性政治家に比べて、合意形成が上手く、決断力があり、リーダーシップがあり、政治的経験があり、支配的であると認識されている。しかし、信頼という特性については、男性と女性の政治家の間に違いは見られなかった。

日本では、政治家に占める女性の割合がいまだに著しく低いにもかかわらず、ジェンダーステレオタイプと投票行動の関係については、十分に理解されていない。本研究は、日本の有権者はジェンダーステレオタイプを抱いていることを明らかにした。今後の研究では、有権者のジェンダーステレオタイプが選挙での投票選択にどのように影響するかだけでなく、ジェンダーステレオタイプが候補者及び政治家の行動にどのように影響するかを検証することが必要である。

図1 政策領域におけるジェンダーステレオタイプ
図1 政策領域におけるジェンダーステレオタイプ
図2 個人特性におけるジェンダーステレオタイプ
図2 個人特性におけるジェンダーステレオタイプ