ノンテクニカルサマリー

ロボット品質の計測:品質改善のペースは鈍化しているのか?

執筆者 木本 遼 (慶應義塾大学)/白塚 重典 (慶應義塾大学)/代田 豊一郎 (北海道大学)/藤原 一平 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト ⾃動化(robotization)が労働市場およびマクロ経済に与える影響について
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「⾃動化(robotization)が労働市場およびマクロ経済に与える影響について」プロジェクト

自動化(すなわち、ロボット導入)の品質が向上し、職場への導入が進むことで、「雇用労働を人から奪うことになるのか?」といった懸念が強まっている。こうした懸念を受けて、理論モデルを用いて、将来についてのシナリオ(シミュレーション結果)を提示する理論的研究は増えつつある。さらに、国際ロボット連盟が作成する統計、すなわち、国別、産業別のロボット需要動向を用いて、自動化の労働市場への影響を実証分析する試みもみられるようになってきた。しかし、こうした実証研究の多くは、ロボット台数の増減が労働市場に与えた影響を計測するもので、そこでは、ロボット品質の変化は考慮されていない。

本研究では、日本ロボット工業会が作成する「ロボット産業需給動向」と日本銀行が作成する「企業物価指数」を用いて、1990年から2018年の間に、日本において、ロボットの品質向上がどの程度進展したのかを計測する。まず、ロボット産業需給動向を用いて、品質未調整のロボット価格指数を、3つのアプローチ(指数論アプローチ、確率アプローチ、構造アプローチ)から作成する。次に、この品質未調整価格指数を、企業物価指数の産業用ロボット価格指数(品質調整済み)で割り込むことにより、ロボット一台あたりの品質を計測する。

以下の図は、本文中のFigure 6を抜粋したものであるが、指数論アプローチから試算されたロボット1台あたりの品質の推移を示している(他の2つのアプローチからも同様の傾向がみて取れる − 本文中のFigure 7、Figure 8を参照)。これによると、2010年以降、ロボット1台あたりの品質改善ペースが大きく鈍化ないし低下している。2010年代には、ロボット1台あたりの品質改善率が、2000年代に比べ、年率でみて3%ポイント程度低下しているとの結果が得られた。

こうしたロボットの品質改善率の低下を示唆する本分析の結果は、投資特殊技術進歩が低下している(消費財に対する資本財の相対価格の低下ペースが鈍化している)、と指摘する、IMFやFRBの最近の研究成果と軌を一にするものと考えられる。

ただし、さまざまな仮定に基づく試算であるため、結果には一定の留意が必要である。さらに、ソフトウェア(アルゴリズムを含む)の進歩などに伴う、ロボットの活用範囲の拡大といった点は、本分析では、捉えきれていない。こうした無形資産(intangible capital)からのサービス・フローをどのようにして計測するかは、今後の課題として残されている。

図