ノンテクニカルサマリー

日本における自発的および要請ベースのロックダウンの感染および経済的影響

執筆者 細野 薫 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト コロナ危機後の資本蓄積と生産性向上
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「コロナ危機後の資本蓄積と生産性向上」プロジェクト

図1は、4都道府県における、外出自粛率と新規感染者数の推移を示している。ここでいう外出自粛率は、国立情報科学研究所の水野研究室が公表しているもので、ドコモの携帯電話、約7800万台の基地局情報から推定されたリアルタイム人口分布をもとに、地域住民が、どの程度、コロナ以前の2020年1月に比べて外出を控えているかを測ったものである(水野[2020])。これによると、新規感染者数が増えると外出自粛率が上昇する傾向にあることが分かる。本研究は、このように人々が感染リスクに応じて外出自粛率を高める行動を「自発的ロックダウン」とよび、政府による自粛要請(要請ベースのロックダウン)とあわせて感染および経済的影響を分析した。

図1. 4都道府県における新規感染者数と外出自粛率の推移
注)緑線は新規感染者数(左軸)、赤線は外出自粛率(%、右軸)を示す。いずれも、過去7日間の移動平均値。新規感染者数は荻原[2020]、外出自粛率は水野[2020]による。

感染の拡大は、自発的ロックダウンによって、人々の間の接触機会を減らし、感染に対して負のフィードバックを及ぼす一方、感染リスクを伴うサービス消費等の経済活動を停滞させると考えられる。そこで本研究では、まず、都道府県別の日次データを用い、第1波(データの取れる3月11日(東京、神奈川は2月8日)から5月31日)、第2波(7月1日から9月30日)、第3波(10月1日から本稿執筆時点の12月27日まで)それぞれについて、感染リスク(新規感染者数÷未感染者数)が外出自粛に負の影響をもたらすこと、逆に外出自粛率は感染の伝達率(1人の感染者が1人の未感染者に単位時間(1日)に2次感染を引き起こす確率)を引き下げることを確認した。さらに、都道府県別月次データ(2020年2月から10月の『商業動態調査』(経済産業省))を用いて、外出自粛率の上昇が百貨店・スーパーの既存店売上高(前年同月比)に負の影響を及ぼすことを確認した。

次に、こうした実証結果を踏まえ、感染拡大モデル(SIRモデル)に、自発的ロックダウンと要請ベースのロックダウンを組み入れた動学的一般均衡モデルを接合したモデルを構築し、いくつかの数値実験を行った。図2は、第1波において、緊急事態宣言下の外出自粛要請および自発的ロックダウンがそれぞれ有る場合と、いずれも無い場合に、感染者割合と消費がどの程度変化したかを示している。これによると、自発的ロックダウンによって、感染者割合のピークは0.543%から0.015%に、消費はボトムで4.9%減少すること、他方、外出自粛要請によって感染者割合のピークは0.033%に、消費はボトムで7.9%減少することが分かる。これ以外に、数値実験によって、以下の点が明らかになった。

図2. 自粛要請及び自発的ロックダウンそれぞれの効果
  • 自発的ロックダウンと外出自粛要請を組み合わせると、感染者割合のピークは0.007%にまで低下し、実際の第1波のピーク(都道府県平均で0.005%)に近づく。他方、消費はボトムで8.4%減少する。
  • 自発的ロックダウンがある場合、外出自粛要請が未感染者の生涯効用で測った経済厚生に及ぼす影響は、未感染者間で大きく異なり、未感染者の一部は厚生損失を被る可能性もある。

本研究によって、自発的ロックダウンを考慮することが、感染動向と経済への影響を理解するうえで重要であることが明らかになった。緊急事態宣言による外出自粛要請を含むさまざまな感染防止策を実施する際には、自発的ロックダウンの有無・程度によって効果が異なることについて留意することが重要である。

参考文献