ノンテクニカルサマリー

地方銀行ビッグデータを用いた企業間入出金ネットワークの解析

執筆者 藤原 義久 (兵庫県立大学)/井上 寛康 (兵庫県立大学)/山口 崇幸 (滋賀大学)/青山 秀明 (ファカルティフェロー)/田中 琢真 (滋賀大学)/菊池 健太郎 (滋賀大学)
研究プロジェクト COVID-19禍のもとのマクロ経済:その実証的分析と復興への道程
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第五期:2020〜2023年度)
「COVID-19禍のもとのマクロ経済:その実証的分析と復興への道程」プロジェクト

企業間取引にともなう資金の流れは、その背後にある企業の経済活動を調べるきわめて有用なデータである。中でも企業の銀行口座間の入出金データは、ほぼリアルタイムに経済活動を捉えることが可能であるという点で理想的なデータであるといえる。本研究では、国内の地方銀行における網羅的な企業の全銀行口座間送金データを用いて、企業活動の背後にある送金の流れを解析した。

複雑ネットワーク解析により送金ネットワークの構造を調べたところ、国レベルの生産ネットワークの構造と似ていることが分かった。特に、蝶ネクタイ構造(bowtie structure)とよばれる有向グラフの解析からは、中心となるコア、その上流と下流に対応する成分を持った「くるみ構造」(walnut structure)と呼ぶ構造があることを示した。これは、任意の口座間をつなぐような資金循環に相当するコアに対する資金の流入出がネットワーク上できわめて短い距離にある口座からなされていることを意味する(図1(a))。各口座のネットワーク上での上流や下流の位置を定量化できるホッジ・ポテンシャルという数理的な量を各口座に対して計算したところ、蝶ネクタイ構造における送金の流れの上流・下流の位置(図1(b))ならびに、口座の正味の入出金の量と数と強い相関をもつことを発見した。

図1 (a) 資金の流れを解析した結果得られる「くるみ構造」。GSCC(giant strongly connected component)=最大強連結成分(資金循環のコア), IN/OUT=コアに対する流入出成分
(b) 各口座についてのホッジ・ポテンシャル(上流や下流の位置を定量化できる)の分布
図1

さらに、口座に対する地理的な情報を用いて地域間の送金データを構成して、それに非負値行列因子分解(NMF=non-negative matrix factorization)を適用した結果、送金の流れ全体にはいくつかの主要な成分が因子として存在すること、それらの因子が地方内の複数の地域固有の送金・入金のパターンに対応していると解釈できることを示した(図2)。

図2 (a) 地域間の送金データに対する非負値行列因子分解の結果得られる成分2つの例。送金元(左)と送金先(右)で各成分が構成される。他の成分は論文付録を参照のこと。
(b) 全成分の中心的な地域の図示。
図2

地方銀行の預金口座の入出金データは、地域の経済活動を映す鏡といえる。このようなビッグデータに基づく本研究の分析枠組みは、地域の経済動向をモニタリングするツールとして有用であると考えられる。具体的には以下のような応用が考えられる。

  • 地域経済の資金循環の構造とその状態変化をほぼリアルタイムで把握可能
  • COVID-19などの経済ショックに対する影響分析
  • 企業のデフォルト・倒産の影響分析
  • 不正な資金の流れの検知