ノンテクニカルサマリー

高速鉄道と経済活動の空間分布:新幹線による実証

執筆者 早川 和伸 (アジア経済研究所)/Hans R.A. KOSTER (Vrije Universiteit Amsterdam, HSE University, Tinbergen Institute, and CEPR)/田渕 隆俊 (ファカルティフェロー)/Jacques-François THISSE (Institute of Developing Economies, HSE University, and CEPR)
研究プロジェクト 都市・地域の経済活動に関する一連の空間経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第五期:2020〜2023年度)
「都市・地域の経済活動に関する一連の空間経済分析」プロジェクト

わが国は新幹線と高速道路に多額の公共投資を行ってきたが、どの程度の経済的な影響があったであろうか。本論文では、企業間の空間的リンケージと集積の経済、および自治体間の通勤と移住を組み込んだ空間計量一般均衡モデルを構築し、新幹線建設が経済活動の分布に及ぼした経済的な影響を測定した。具体的には、全国1,658の自治体間の鉄道と道路のネットワークを構築し、新幹線と高速道路の建設が自治体の雇用や社会厚生に与えた影響を計量経済学的に分析した。

推定の結果、公共投資による道路整備によって移動時間が短縮すると、通勤行動に大きく影響を及ぼすことが明らかになった。これは、全国的には車のほうが鉄道よりも通勤に使われているからだと考えられる。一方、公共投資による新幹線建設によって移動時間が短縮すると、企業間の交易に強い影響を及ぼしたことも明らかになった。これは、企業間取引には新幹線が重要であることを意味している。企業間の取引というと、トラックで高速道路を使って財を輸送することだと考えられがちであるが、人が新幹線を使って取引企業との対面による契約やマーケティング、保守サービスなどを行うことが肝心であることを物語っている。

こうして推定されたパラメータをもとに、シミュレーション分析を行った。まず、もし北海道新幹線やリニア中央新幹線など、現在計画されている新幹線がすべて完成したら、わが国の社会厚生は5.5%向上することが分かった。とくに、新幹線が停車する自治体では、雇用が増加する。例えば、名古屋圏では11.2%、長崎市や高岡市では10%雇用が増加することが分かった。一方、新幹線が停車しない自治体では、雇用が最大で20%減少する(図1)。

図1:現在計画中の新幹線がすべて完成したときの雇用の変化
図1:現在計画中の新幹線がすべて完成したときの雇用の変化
図2:すべての新幹線がなくなったときの雇用の変化
図2:すべての新幹線がなくなったときの雇用の変化

逆に、もしすべての新幹線がなかったならば、国全体の社会厚生は6.5%減少する。雇用については、東京圏と大阪圏ではそれぞれ6.3%と4.4%増加し、名古屋圏では23%減少していただろうことが明らかになった(図2)。このことは、現在の新幹線が名古屋圏に及ぼした影響が多大であったことを示唆している。

以上の結果を要約すると、新幹線が経済活動の空間分布に与えてきた影響は多大であった。