ノンテクニカルサマリー

生活と職場での満足感と行動変容能力―日本における実証研究

執筆者 西村 和雄 (ファカルティフェロー)/八木 匡 (同志社大学)
研究プロジェクト 日本の経済成長と生産性向上のための基礎的研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本の経済成長と生産性向上のための基礎的研究」プロジェクト

本論文では、最近、さまざまな分野で研究され、次第に注目をあびてきている行動変容を、「何らかの切っ掛けによって促される人々の自発的な行動変化」として定義した上で、それが、人のどういった属性に依存し、また、生活の満足感にどの程度影響するのかについて分析する。

本研究で用いるデータは、独立行政法人経済産業研究所における「日本経済の成長と生産性向上のための基礎的研究」の一環として、楽天インサイト(旧楽天リサーチ)を通じて、2018年2月8日から、2018年9月3日にかけて、2回にわたって実施した「生活環境と幸福感に関するインターネット調査」と「『生活環境と幸福感に関するインターネット調査』の追加調査」の結果である。

われわれは、アンケート調査によって、行動変容能力を、学習忍耐力、可塑性(「行動を自主的に変える」実行力)、受容性(CMに影響されて実行するように、「外的な働き方を受け入れること」)という因子に分解し、それぞれの因子が、性別、年齢、前向き志向と自己決定指数にどのように依存するかを調べた。その結果、図1で示されるように、学習忍耐力に対する影響の強さは、自己決定指数、前向き志向、男性ダミーの順番となっている。次に、可塑性に対する影響の強さは、前向き志向、年齢、自己決定指数、男性ダミーの順番となっている。受容性に対する影響の強さは、前向き志向、男性ダミー、自己決定指数の順番となっている。これらの結果が示すように、前向き志向は、行動変容を決定するすべての要因に正の影響を与えている。

また、行動変容能力が生活と職場の満足度にどう影響しているかも調べた。生活への満足度に関しては、図2で示されるように、行動変容能力の中でも特に可塑性が重要な役割を果たしており、健康、ストレス、所得、パートナーとの関係に対して、有意に正の影響を持っていることが示された。

図1:行動変容能力決定要因の分析/図2:行動変容能力決定要因の分析

職場での満足感、特に、労働条件、仕事方法の裁量、職場の仲間、良い仕事をしているという認識、直属の上司、雇用の保障に関しては、図3で示されるように、行動変容能力が与える影響は共通していて、学習忍耐力と可塑性が正の影響を与えているのに対し、受容性は負の影響を与えていた。これらすべてに関して、学習忍耐力が最も強い影響を与えており、受容性は比較的弱い影響となっている。

図3:行動変容能力と職場満足度