ノンテクニカルサマリー

外国人既婚女性の労働供給の実証研究:低い女性労働参加率の受け入れ国

執筆者 劉 洋 (研究員)/萩原 里紗 (明海大学)
研究プロジェクト 日本在住の外国人の就労、移住と家庭に関する実証研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本在住の外国人の就労、移住と家庭に関する実証研究」プロジェクト

日本の深刻化した労働力不足対策の1つとして、外国人労働者の受け入れ政策が積極的に実施された。外国人労働者の数が急増し、その半数以上は女性である。しかし、日本では、女性就労の阻害要因(夫の長時間労働、性別役割分担の文化など)が問題視されてきた。もし外国人女性も同じような影響を受けるのだとしたら、労働市場から退出する懸念がある。その一方、影響を受けないという可能性もある。これまで日本では、データを用いた検証はされていない。海外においては、外国人女性の就労の決定要因について、膨大な学術的成果が積み上げられているが、女性の労働参加率が(外国人の出身国と比べて)高い受け入れ国に限定されているため、女性の労働参加率が出身国より低い国へ移住した外国人女性を用いた研究は、調べた限り、未だに存在していない。

本研究の目的は、日本における外国人女性の労働参加の決定要因、特に、出身国の文化に原因があるかどうかを検証することである。さらに、個人・家庭の属性による影響部分を取り除いたうえで、長期的に居住した外国人女性が、中短期居住の外国人女性より労働参加率が高いかどうかを確認する。

本研究の発見として、まず、図1に示されるように、日本に居住する外国人女性は、出身国によって、労働参加率が異なる。特に長期居住者は、出身国の女性労働参加率に近い傾向が見られる。それから、ほとんどの国籍において、長期居住者は中短期居住者より、平均的に高い労働参加率を示している。

図1:日本における主要10か国の外国人女性の労働参加率
(中短期居住者、長期居住者、出身国の女性労働参加率)
図1:日本における主要10か国の外国人女性の労働参加率

本研究は、標準的な夫婦世帯における妻の労働供給モデルに、文化の要素を導入し、理論モデルからの結果が実証的に確認できるかを検証している。データは、『国勢調査』2010年の個票データである。推定結果は以下のとおりである。まず、受入国の日本での労働参加の決定要因について、居住期間5年以上のサンプルを対象に推定を行った。女性本人の出身国文化の影響は有意であり、配偶者の出身国文化の影響は、女性本人の文化の影響を下回るものの、有意な値が得られた。表1に基づいて計算した結果、女性の家事に対する価値観(注1)が、母集団の1標準偏差が増えると、彼女が労働に参加する確率が4.2ポイント(percentage point)減少する。また同様に、夫の家事に対する価値観が1標準偏差増えると、妻が労働に参加する確率が2.5ポイント減少する。それから、女性労働参加率が1標準偏差高い国から来た女性は、日本で労働に参加する確率が1.8ポイント高くなり、夫の女性労働参加率が1標準偏差高い国から来た女性は、日本で労働に参加する確率が1.0ポイント高くなる。これらの影響の大きさは、アメリカの似たような先行研究と近い(Fernandez and Fogli, 2009, p.163)。つまり、家事に対する価値観が高い出身国から来た女性ほど、日本での労働参加確率が低く、女性の労働参加率が高い出身国から来た女性ほど、日本での労働参加確率は高い傾向にある。

表1:文化の影響に関する推定結果と記述統計
表1:文化の影響に関する推定結果と記述統計
注:限界効果とある列の上段は限界効果、下段は標準誤差を示す。

特に夫の文化の影響は、他国の研究でも認められたものの(Fernandez, et. al. 2004, Fernandez and Fogli 2009)、調べた限り、同じアプローチを用いた結果は有意ではなかったが、本研究では、サンプル・サイズが小さいグループでも有意な結果が得られた。背景には、低い女性労働参加率を生じさせる受入国の社会環境があると考える。日本のような社会では、夫の文化の影響は、夫が妻の労働参加を支える気持ちのみならず、夫が家庭にいる時間を確保するために、(キャリアを多少犠牲にすることを含め)自分の長時間労働を削減する行動も含まれるので、影響が大きくなることが原因の1つと考える。そのほか、日本の先行研究と同じように、妻の学歴、夫の学歴、職歴、高賃金の職に就くこと、フルタイム勤務、子供の数、高齢者の数、親との同居なども有意な結果が得られた。

それから、居住期間と労働参加率については、居住期間が5年以上のグループは5年未満のグループよりほとんど、女性の労働参加率が高いことと、2つのグループの差のうち、個人属性、家族属性、地域属性から説明できる部分は小さいことが示された。属性で説明できない部分は、現地労働市場への適応(経済の同化)と、現地文化の受け入れ(文化の同化) によるものだと考える。経済の同化は正で、文化の同化は負で、全体的な同化は正のため、経済の同化の影響は文化の同化の影響を上回ると推測できる。なお外国人女性は日本に長期的に居住しても、労働参加率が来日5年未満の平均労働参加率と比べて低下しないことが分かった。

以上のように、本研究は、外国人既婚女性の労働供給について、日本のデータを用いて、女性労働参加率の低い受け入れ国の日本からのエビデンスを提供した。近年、日本の深刻化した人手不足対策の1つとして、外国人受け入れ政策が積極的に実施されてきた。外国人の半数以上を占める女性は、ほとんど日本より女性労働参加率が高い国の出身者である。本研究は、外国人女性は、高い女性労働参加率を示す出身国の文化から影響を受け、そして、長期的に日本に居住しても、労働参加率が低下する可能性が低いため、労働力として期待できるという政策インプリケーションを得た。

脚注
  1. ^ 価値観に関する変数(女性の家事に対する価値観と夫の家事に対する価値観)は、各調査対象者が1から4までの選択肢から選択した回答値を、国別に平均値にしたものを使用している。このため、本研究で使用する価値観に関する変数は、連続変数の形をとっている。
参考文献
  • Fernández, Raquel, Alessandra Fogli, and Claudia Olivetti, "‘Mothers and Sons: Preference Formation and Female Labor Force Dynamics," Quarterly Journal of Economics 119:4 (2004), 1249-1299
  • Fernández, Raquel, and Alessandra Fogli. "Culture: An empirical investigation of beliefs, work, and fertility," American economic journal: Macroeconomics 1.1 (2009): 146-77.