ノンテクニカルサマリー

外国直接投資、出資形態、生産性

執筆者 伊藤 匡 (学習院大学)/田中 鮎夢 (リサーチアソシエイト)
研究プロジェクト 直接投資および投資に伴う貿易に関する研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「直接投資および投資に伴う貿易に関する研究」プロジェクト

外国直接投資を行う企業は行わない企業よりも生産性が高いということが、実証的に広く明らかにされている。同事実を理論的に説明したHelpman, Melitz and Yeaple (2004)(以下、Helpman et al. (2004))は、直接投資を行うに際しての固定費用が同現象の根源にあるとしている。すなわち、工場などの拠点を海外に開設するための固定費用は、国内において開設するよりも多額であるため、同固定費用を賄えるだけの操業利益を生み出すことのできる企業のみが、海外直接投資を実施できるわけである。Helpman et al. (2004)は、同固定費用の全てを親会社が負担する100%子会社を想定しているが、実際には100%子会社は海外直接投資の半分程度であり、残り半分は他の会社との共同出資の形を取っている。表1が示す通り、完全子会社は日本の海外現地法人の半分に満たない。

表1:海外直接投資の出資タイプ別割合(親会社・子会社共に製造業)
出資タイプ 海外現地法人数 全体に占める割合
完全子会社 3581 47.3%
他の日本の製造業会社との共同出資 196 2.6%
日本の卸・貿易業(商社など)との共同出資 233 3.1%
進出先国もしくは第三国の会社との共同出資 3546 46.8%
その他 15 0.2%
合計 7571
出典)東洋経済新報社 海外進出企業データより筆者作成

本稿は、Helpman et al. (2004)を拡張することにより共同出資による海外直接投資の理論を導出した。そのメカニズムの概要は以下の通り。上述の海外子会社を設立するための固定費用は、ホスト国における法制など各種ルールや商慣習を含んでいるため、これらに精通している現地企業や現地に既に事務所を有する日本の商社などと共同出資を行えば、同固定費用を低減することが可能である。一方で、同固定費用を賄うための操業利益については、上述の通り生産性が鍵となるわけであるが、完全子会社の場合と比較して共同出資の場合にはパートナー企業への技術伝達などの過程で生産性がある程度低下せざるを得ない。よって、固定費用の低減というメリットの一方で、生産性低下による操業利益の低下というデメリットが発生する。メリットとデメリットのトレードオフによって生産性と進出形態の関係が決まる。その結果、生産性が低い企業は海外直接投資を行わず、生産性が十分に高い企業は完全子会社の海外直接投資を行い、海外直接投資を行うに十分な生産性を有するものの単独で子会社を設立するに足る生産性に至らない企業は他の会社との共同出資の形で海外直接投資を行うことになる。(更なる詳細については、論文を参照願いたい。)

本稿では、更に上記の理論的仮説を日本の企業データ(企業活動基本調査、海外事業活動基本調査、東洋経済新報社海外進出企業データ)にて統計的実証分析を行った。図1は出資タイプ別(子会社なし(海外直接投資がない)、共同出資、完全子会社)に親企業の全要素生産性(TFP)の分布を示したものである。完全子会社を持つ親企業は共同出資を行う企業よりも平均的に生産性が高く、共同出資の形で海外直接投資を行う企業は、海外直接投資がない企業よりも平均的に生産性が高いことが分かる。統計的テスト(コルモゴロフ・スミルノフ テスト)でもこのことは確認された。

図1:全要素生産性の分布(2013年)
図1:全要素生産性の分布(2013年)
出典)企業活動基本調査より筆者作成

また、企業活動基本調査より計測した全要素生産性と東洋経済新報社海外進出企業データにおける親会社の出資比率の情報を利用して計量経済分析を行った結果、生産性が高い企業ほど出資比率が高いこと、また生産性が低い企業は商社など卸・貿易業に分類される企業や地元企業、第三国企業との共同出資による海外直接投資を選択する傾向にあることが明らかになった。

これらの発見事項は、生産性の低い企業でも共同出資する相手企業を見つけることができれば、海外進出が可能なことを示している。ジェトロなど政府系組織を通じて、相手先となる日本側商社や現地及び第三国企業とのマッチングを更に推進する意義を示唆していると言えるであろう。

参考文献
  • Helpman, E., Melitz, M., and Yeaple, S. (2004). Export versus FDI with heterogeneous firms. American Economic Review, Vol.94, No.1, 300–316