ノンテクニカルサマリー

日本における日本人と移民の高校進学格差

執筆者 萩原 里紗 (明海大学)/劉 洋 (研究員)
研究プロジェクト 日本在住の外国人の就労、移住と家庭に関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本在住の外国人の就労、移住と家庭に関する実証研究」プロジェクト

在留外国人の増加に伴い、日本人の子どもと日本で暮らす外国人の子どもとの間の教育格差が問題となっている。外国人の子どもは、言葉の壁が原因で勉強についていけないケースや、親の就労状況が不安定で進学が難しいケースが少なくなく、どのような要因が格差を拡大するのかについては、日本だけでなく海外の受入国も含め、多くの研究が行われ、政策に繋げられてきた。しかし、格差拡大に影響する要因については数多く挙げられるものの、どの要因が最も格差を拡大するものなのかといった議論は進んでおらず、政策を行うにも、優先すべき政策が定まらず、効果が出にくくなっている懸念がある。

本論文では、日本人の子どもと外国人の子どもとの間の高校進学格差に、どのような要因が影響するのか、影響する要因のうち最も格差を拡大するものは何かを明らかにする。本研究では、総務省の「国勢調査(2010年度)」と非線形モデルに応用した要因分解を用いて、日本人の親を持つ子どもと外国人の親を持つ子どもの間において、高校進学にはどのような要因が影響を及ぼしているのか、影響する要因のうち格差を拡大する要因は何なのか、また、高校に進学できなかった場合、外国人の親を持つ子どもはどのような状態にあるのかについて確認する。

進学格差の要因については、日本での在住期間、親が漢字圏出身かどうかといった移民背景に関する要因と、親の就業形態、住宅所有といった経済的要因に着目し、その他、居住地域や兄弟姉妹数などの要因も考慮して格差の要因分解を行った。

分析結果の概要は表に示している。表からは、在住期間、親が漢字圏出身かどうか、親の就業形態、住宅所有はこれらの差が広がることによって進学格差を拡大することが確認された。中でも、親が漢字圏出身かどうかは、進学格差拡大に与える影響は大きく、進学格差拡大のうち66.4%を占めており、今回注目した拡大要因のうち最も影響力の大きい要因である。次に格差拡大に占める割合の高い要因は住宅所有であり20.7%を占めており、その次に割合の高い要因は父親の正規雇用であり15.2%を占めている。なお、在住期間は10.5%を占めており、格差拡大に占める割合の高い要因の順で4番目に位置している。

このように、高校進学格差を拡大する要因のうち、特に大きな影響を及ぼす要因は親が漢字圏出身かどうかであり、漢字圏出身者と非漢字圏出身者との間の差が深刻な進学格差を生じさせていることが分かった。このため、外国人の子どものうち、特に非漢字圏出身者への対応を強化していく必要がある。両者に違いが生じる理由として、漢字圏出身者のほうが言語の類似性から日本語の習得がしやすいことが一因と考えられることから、非漢字圏出身者の日本語の習得支援に力を注ぐ重要性が示唆された。

また、親の就業形態や住宅所有の要因は経済的要因と考えられることから、進学に伴う経済的負担を軽減することが高校進学格差を解消することにつながる。

表:両親が日本人の子どもと両親が外国人の子どもの格差の要因別ランキング
高校進学率の要因分解の結果 係数 格差に占める割合
親が漢字圏出身かどうか 0.0475*** 66.4%
住宅所有 0.0148*** 20.7%
父親が正規雇用かどうか 0.0109*** 15.2%
日本在住期間が5年以上かどうか 0.00753*** 10.5%
母親が就業しているかどうか 0.00182*** 2.5%
兄弟姉妹数 0.00142*** 2.0%
都道府県 0.00142 2.0%
父親が自営業かどうか 0.00131*** 1.8%
父親が役員かどうか 0.000691** 1.0%
子どもが女性かどうか 6.58E-05 0.1%
父親が非正規雇用かどうか -0.000862 -1.2%
親が4年生大学出身かどうか -0.00111** -1.6%
人口密度 -0.00148*** -2.1%
年齢 -0.0162*** -22.7%
分析対象者の人数 223,133
説明可能な格差の大きさ 0.0678
説明可能な格差の大きさ 0.0678
格差全体の大きさ 0.0715
説明可能な格差の大きさ(%表示) 94.8%
両親が外国人の子どもの高校進学率 0.897
両親が日本人の子どもの高校進学率 0.968
両親が外国人の子どもの人数 813
片親が外国人の子どもの人数 1,839
両親が日本人の子どもの人数 220,481
注:Fairlie (2005)の方法で要因分解を行った結果を掲載している。父親の就業形態に関連するダミー変数の参照グループは無業である。ランキングは、格差拡大に占める割合の大きい順に並べており、割合が同値な場合は統計的に有意なものを上位に並べている。

さらに本論文では、高校に進学できなかった場合、外国人の子どもはどのような進路をたどっているのかについても確認した。分析の結果、高校に進学しなかった子どものうち、外国人の子どもは、日本人の子どもと比べて、失業状態に置かれやすいことが分かった。このように、外国人の子どもは進学も難しく、就業を希望しながら仕事を見つけにくい状況に立たされていることから、進学支援とともに、就職支援も同時に行っていく必要がある。

参考文献
  • Fairlie, R. W., 2005, An extension of the Blinder–Oaxaca decomposition technique to logit and probit models. Journal of Economic and Social Measurement, 30, pp. 305–16.