ノンテクニカルサマリー

AIにおける科学と技術の共起化:論文と特許の接続データによる実証分析

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「デジタル化とイノベーションエコシステムに関する実証研究」プロジェクト

科学的知見を広く公開する論文と特定技術の占有権を認める特許は相反する性格を有しているが、本論Figure3で示すように、AI分野は、他の技術分野と比べて、論文生産と特許発明の両方を行っている研究者の割合が高い。また、この傾向は論文、特許の双方において高まってきている。さらに、AI分野はクロスオーバー人材(企業とアカデミアの両方を経験している人材)の割合が大きいこともわかっている。

本研究はAIに関する論文と特許を著者・発明者レベルで接続したデータを用いて、AIの進歩における科学(論文)と技術(特許)の関係について分析を行い、AI分野に見られる科学と技術の共起化(相互補完的な進歩)がなぜ起きているのか実証研究で示したものである。具体的には、米国特許データとElsevierのSCOPUS(論文データベース)の米国著者・発明者を接続したデータを作成し、論文著者が発明者として参画しているAI特許とそれ以外のAI特許の被引用件数(自己引用、他者引用)と被引用特許の技術的多角化度(Generality指標)の比較を行った。

その結果の概要は以下のとおりである。

  • 論文著者が参画しているAI特許は自己引用、他者引用とも被引用数が大きい。また、より幅広い技術の特許に引用されている(Generality指標が大きい)。
  • 上記の発明者がクロスオーバー人材(企業とアカデミアの両方を経験している人材)の場合、被引用数やGenerality指標はより大きくなる(論文著者の発明とクロスオーバー人材は補完的な関係にある)。

この結果は企業のエコシステム戦略で説明することができる。AIに関するイノベーションは下図のとおり、インターネットに加えて、IoTセンサーによるモノのデータの収集によってビッグデータの利用が可能となり、AIはデータ分析の頭脳としての役割を担っている。また、その応用分野としては、自動運転、スマート工場、家庭用機器、医療診断、金融商品など多岐・多様である。このような状況下で、自社の技術を論文によって特定の手法を公開して自社技術のユーザーを増やしながら、特許化した特定技術で収益化するエコシステムのキーストーン(リーダーシップ)戦略が有効である。つまり、論文を公開することで自社技術のユーザーを増やす(オープン)、その一方で特許を取りながら技術の収益化を行う(クローズ)、オープンとクローズを組み合わせた戦略である。

図:AIとデータドリブンイノベーション
図:AIとデータドリブンイノベーション

このような状況下で企業としても特許で技術の占有化を行うだけでなく、研究成果を論文として公表し、アカデミックコミュニティに貢献する活動も重要である。また、このような活動を行うことでより優れたAI人材をアカデミアから引き付けることができ、自社の技術競争力向上にも有益であると考えられる。