ノンテクニカルサマリー

乗合バス事業における経営管理がパフォーマンスに与える影響

執筆者 川崎 一泰 (中央大学)/乾 友彦 (ファカルティフェロー)/宮川 努 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 生産性向上投資研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「生産性向上投資研究」プロジェクト

公営企業は、経営の非効率性が指摘されることが多く、実際に赤字経営をしている企業体が多い。この背景には公営企業の場合、赤字を計上しても最後は公共部門が穴埋めをしてくれるというソフトバジェット(緩い財政制約)問題が指摘される。そこで、競争原理が働く民営化や公民連携のような手法でこの問題の解決を図る傾向があった。

乗合バス事業は、同一事業を公営企業と民営企業が運営している部門であり、民営化などによって改善を図ってきた部門の1つである。実際、国土交通省が公表している長期時系列データでは、乗合バス事業における公営企業は1975年に公営企業が59あったものが、2017年には23にまで減少している。

一方、Bloom and Van Reenen (2007)以降、経営管理と企業パフォーマンスの関係を分析する研究が進められ、経営管理がしっかりしている企業のパフォーマンスがよいことが分かってきた。これが公営企業においても当てはまるとすると民営化だけが効率性の改善につながるということではなく、経営管理のあり方が解決策となる可能性がある。本研究は公益事業の乗合バス事業を例に、アンケート調査に基づき経営管理と企業パフォーマンスの関係を明らかにし、企業パフォーマンス改善に必要な要素について議論した。

Bloom and Van Reenen (2007)の方法に従い経営管理に関するアンケート調査を実施し、経営理念の浸透度や組織の目標設定など、経営管理に関する項目をカテゴライズし、それぞれのカテゴリーを4段階で評価し、平均化した経営管理スコアの分布を推計した。図は公営企業と民間企業の平均化された経営監理スコアを図示したものであるが、公営企業の方が、経営管理能力が高い傾向にあることが分かった。

図:経営管理スコアの公民比較(カーネル密度分布)
図:経営管理スコアの公民比較(カーネル密度分布)

次に、経営管理スコア全般と企業パフォーマンスの関係を計量分析したところ、製造業とは異なり利益率や付加価値との関係は観測されなかったものの、売上高や輸送客数などのアウトプット指標に関しては有意な正の関係が観測された。これはバス事業が多くの規制を受け、料金設定などの自由度が低いことから高度なサービスに対して料金収入に結びついていないことに起因しているものと考えられる。

また、経営管理スコアの構成項目の1つであるオペレーションの項目とは企業パフォーマンスとは有意な関係を見いだせたのに対して、他の構成項目であるインセンティブの項目とは有意な関係は見いだせなかった。従業員個人に対するインセンティブよりも組織全体での運行管理が企業パフォーマンスに対しては重要であることが示唆された。

これらの結果は公益事業の解決策として、民営化よりもむしろ組織的な経営管理を向上させることが重要な要素であることを示唆する。

表:企業パフォーマンス(被説明変数)と経営管理スコアの関係のまとめ
表:企業パフォーマンス(被説明変数)と経営管理スコアの関係のまとめ
***1%有意水準、**5%有意水準、*10%有意水準
参考文献
  • Bloom, Nicholas, and John Van Reenen (2007) "Measuring and Explaining Management Practices across Firms and Countries." Quarterly Journal of Economics 122, pp.1351-1408.