ノンテクニカルサマリー

特別養護老人ホームのマネジメントとパフォーマンス

執筆者 乾 友彦 (ファカルティフェロー)/川崎 一泰 (中央大学)/伊藤 由希子 (津田塾大学)/宮川 努 (ファカルティフェロー)/真野 俊樹 (中央大学)
研究プロジェクト 生産性向上投資研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「医療・教育サービス産業の資源配分の改善と生産性向上に関する分析」プロジェクト

日本社会の急速な高齢化に伴い高齢者に対する介護サービスの需要が急速に増加している。厚生労働省による「平成28年度介護保険事業状況報告(年報)」によると介護保険による介護サービスを受けることが出来る要介護(要支援)認定者は、制度発足時の2000年度の256万人から、2016年度は632万人に増加している。このような介護サービス需要の増大に伴い介護保険給付費が同期間において、3兆2,427億円からに9兆2,290億円に増加した。社会保障給付額全体に占める割合は同期間で4.1%から7.9%に上昇しており、社会保障額給付額全体が上昇のスピードを上回る。政府による現状を投影した簡単な見通しによると、介護給付費は2018年度に10.7兆円、2025年度に14.6兆円、2040年度には24.6兆円を見込んでいる。また都道府県は、2025年度までに2016年度の約190万人に加え約55万人、年間6万人程度の介護人材を確保する必要があるとしている。このように急速に拡大する介護サービス需要に伴い、現状でも既に深刻化している介護サービスの担い手不足への対応に加えて、財政的な負担の拡大を抑制するためにも、労働生産性の向上が供給側にも求められる。

本研究は、介護サービス供給者のなかの介護保険施設サービス、なかでもその主導的地位にある介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)の経営管理とそのパフォーマンスの関係を検証する。先行研究においては、経営管理の優れた事業者は労働生産性やサービスの質が高いことを見いだしている(Bender et al. 2018, Bloom et al. 2015)。先行研究をベースにしながら日本の運営実態に即した調査項目の追加や削除したアンケート調査を、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県に立地する特別養護老人ホーム事業所を対象に実施した。その結果を使用して経営管理の水準を測定するためにマネジメント・スコアを作成し、表にあるような分布が得られた。

このマネジメント・スコアを使用して分析した結果、経営管理が優れた事業所ほど労働生産性の向上、IT化の進展、ロボット化の進展、施設管理者の新規業務や業務の改善のための時間の割合が増える等、直接的あるいは間接的に生産性の向上に寄与することが判明した。経営管理の改善は重要であり、政府は経営管理のガイダンスの提供に留まらず、経営管理能力の向上に対してインセンティブを付与するような政策手段を考案する必要がある。

表:特別養護老人ホームにおけるマネジメント・スコアの分布
表:特別養護老人ホームにおけるマネジメント・スコアの分布
資料:本研究によるアンケート結果から作成
注:スコアについては、1から4までの4段階での評価し、点数が高いほど経営管理が優れている。
参考文献
  • Bender, Stefan, Nicholas Bloom, David Card, John Van Reenen, and Stefanie Wolter (2018) "Management Practices, Workforce Selection, and Productivity." Journal of Labor Economics, 36, no. S1, pp. S371-S409
  • Bloom, Nicholas, Carol Propper, Stephan Seiler, and John Van Reenen (2015) "The Impact of Competition on Management Quality: Evidence from Public Hospitals." Review of Economic Studies 82, pp. 457-489.