ノンテクニカルサマリー

エアコンの商品選択における省エネ情報表示の効果-オンラインでのランダム化比較試験に基づく分析-

執筆者 平井 祐介 (経済産業省)/小林 庸平 (コンサルティングフェロー)/横尾 英史 (リサーチアソシエイト)/高橋 渓 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)/竹田 雅浩 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)/吉川 泰弘 (経済産業省)
研究プロジェクト 日本におけるエビデンスに基づく政策の推進
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本におけるエビデンスに基づく政策の推進」プロジェクト

問題意識と分析の概要

2006年に省エネ法に導入された「小売事業者表示制度」では、消費者が製品購入時に省エネ性能を認識・比較できるよう、小売事業者に対して省エネ情報の提供の努力義務が課された。具体的には、エアコン、冷蔵庫、テレビ等に関して、①多段階評価、②省エネルギーラベル、③年間の目安電気料金などの情報を盛り込んだ「統一省エネルギーラベル」を表示する必要がある(図1)。

図1:統一省エネルギーラベルの様式
図1:統一省エネルギーラベルの様式
(出所)経済産業省(2010)

一方、近年は電子商取引(EC)サイト上での製品購入が増加しているが、ECサイト上では統一省エネルギーラベルの活用は進んでいない。ECサイトでは、実店舗と異なりラベルを表示するスペースが限られており、消費者の行動変容を効果的に促すための情報提供のあり方を検討することは、学術的にも政策的にも重要な意義を持っている。

そこで本稿では、ECサイトでの製品選択ページを模した画面を作成し、オンライン調査内でのランダム化比較試験を行うことで、どういった情報提供の仕方によって、消費者の製品選択行動に影響を与えられるかを検討した。ランダム化比較試験の概要は図2の通りである。アンケート対象者をランダムに6つのグループに割り当て、製品選択行動への影響を条件付ロジット分析によって検証した。

図2:オンライン調査によるランダム化比較試験の概要
図2:オンライン調査によるランダム化比較試験の概要

分析結果のポイント

条件付ロジットの推定結果を用いて、省エネ性能の多段階評価が1段階上昇することに対する支払意思額(Willingness To Pay:WTP)を計算したものが図3である。省エネ情報を表示しなかった対照群(①)の場合、多段階評価が1段階上昇することに対するWTPは1.1万円だが、多段階評価の情報提供をした場合(②・③)や目安電気料金を表示した場合(④)は、WTPが1.7万円程度まで上昇している。またすべての省エネ情報を表示した場合(⑥)、WTPは2.1万円まで上昇している。一方で、省エネ基準達成率を表示した場合(⑤)のWTP上昇効果はほとんどない。

図3:省エネ性能1段階上昇の支払意思額(WTP)
図3:省エネ性能1段階上昇の支払意思額(WTP)

政策的インプリケーション

本稿の政策的インプリケーションは以下の通りである。

第一に、省エネ情報を効果的に示すことによって、省エネ性能の高い製品の購買を促せることが明らかになった。第二に、省エネ情報の表示には効果の見込めないものも存在するため、特にECサイト上のような限られたスペースの場合は、効果的な情報に絞り込んで表示する必要がある。第三に、省エネ情報を表示することによって、消費者の選択を長期的な視点から合理的なものに近づけられる可能性がある。省エネ多段階評価が1段階上昇することによって年間電気料金をおよそ2,000円程度抑制することが可能となるため、エアコンの平均耐用年数が13.6年であることを踏まえると、省エネ性能の1段階高い製品を購入することによって、使用期間全体で2.7万円ほど電気料金を節約することができる。省エネ情報を表示しない場合のWTPは1.1万円であるため、消費者は省エネ性能を過小評価し近視眼的な製品選択を行いがちであることが分かる。しかし省エネ情報を効果的に示すことによって、消費者の行動をより合理的なものに近づけられる可能性がある。

参考文献