ノンテクニカルサマリー

省エネルギーに関する事業者クラス分け評価制度の効果分析

執筆者 吉川 泰弘 (経済産業省)/小林 庸平 (コンサルティングフェロー)/横尾 英史 (リサーチアソシエイト)/深井 暁雄 (資源エネルギー庁)/田口 壮輔 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
研究プロジェクト 日本におけるエビデンスに基づく政策の推進
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本におけるエビデンスに基づく政策の推進」プロジェクト

問題意識と分析の概要

資源エネルギー庁では、工場等でエネルギーを使用する事業者に対してエネルギーの使用の合理化を促すために、2016年度から「事業者クラス分け評価制度」を導入し、事業者に対してメリハリのある対応を実施ししている。具体的には、省エネ法の定期報告を提出する全ての特定事業者及び特定連鎖化事業者をS・A・B・Cの4段階にクラス分けし、Sクラス事業者(優良事業者)を経済産業省のホームページにおいて業種別に公表して称揚する一方、B・Cクラス事業者(停滞事業者等)には注意喚起文書を送付するとともに、一部の停滞事業者には報告徴収・現地調査・立入検査を実施している(図1)。

本稿では、資源エネルギー庁に対して各事業者が提出した定期報告データと独自の追加調査のデータを用いて、事業者クラス分け評価制度が事業者の省エネを促進したかどうかを定量的に分析する。具体的には、AクラスとBクラスの境界付近の事業者に着目して、回帰不連続(RD)デザイン等を用いた分析を行う。

図1:事業者クラス分け(SABC)評価制度の概要
図1:事業者クラス分け(SABC)評価制度の概要
(出所)資源エネルギー庁「事業者クラス分け評価制度の概要」

分析結果のポイント

RDデザインを用いた主要な分析結果を示したものが図2である。事業者ごとのエネルギー消費の効率性は、「エネルギー消費原単位(=エネルギー消費量/エネルギー使用量に密接な関係のある生産数量等)」と呼ばれる指標によって測定されるが、図2の縦軸は「エネルギー消費原単位の平成27年度から平成28年度にかけての変化(100の場合は変化なし、100超の場合はエネルギー消費効率が悪化、100未満の場合はエネルギー消費効率が改善)」を表したものである。一方横軸は、事業者クラス分けに用いられた「平成26年度時点における過去2年間のエネルギー消費原単位の変化」を表している。0よりも右に位置している事業者は、2年連続で原単位が悪化しているためBクラスに格付けられる。一方0よりも左の場合はAクラスとなる。RDデザインの枠組みでは、横軸が0となるところの2つの直線・曲線の切片の差が、政策効果を表すことになる。

図2の左側は1次式(直線)を当てはめた推定であり、図2の右側は2次式(曲線)を当てはめた推定だが、いずれの推定でもBクラスはエネルギー消費原単位を減少させている傾向がある。つまり事業者クラス分け評価制度に基づく注意喚起文書の送付等によって、Bクラス事業者の省エネが促進されている可能性がある。ただし図には示していないものの、過去5年間の平均原単位が5%超悪化したことによってBクラスに格付けられた事業者については、注意喚起文書の送付等の効果がなかった。

図2:平成28年度エネルギー消費原単位対前年度変化
(横軸:平成26年度の過去2年間原単位変化)
図2:平成28年度エネルギー消費原単位対前年度変化
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政策的インプリケーション

本稿の政策的インプリケーションは以下の通りである。

事業者クラス分け評価制度は、事業者に対してメリハリのある対応を実施することにより、事業者全体の省エネ取り組みに対する意欲を向上させる取り組みとして、2016年度から導入されたものである。本稿の分析結果に基づくと、事業者クラス分け評価制度に基づく事業者に対する省エネ行動の促進は、一定の効果があると言える。しかしながら、長期的にエネルギー消費効率が悪化傾向にある事業者に対しては効果が確認されなかった。

行動科学のアプローチに基づいて事業者の行動変容を促せるかどうかは、学術的にも研究蓄積が少なく、効果的な行動変容のアプローチのあり方も引き続き検討していく必要がある。

参考文献