ノンテクニカルサマリー

特許データと意匠データのリンケージ:創作者レベルで見る企業における工業デザイン活動に関する分析

執筆者 池内 健太 (研究員)/元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究」プロジェクト

デザイン活動は企業競争力における重要な要素であることは多くの実証研究で証明されている。新興国の技術的キャッチアップが進む中、日本企業においてもデザイン力による製品競争力に興味が高まっている。しかし、経済産業省の調査によるとデザイン力を企業競争力の源泉と考えている企業は10%以下である。企業のデザイン活動について定量的な分析を行うためのデータとして意匠権データの特性を明らかにするために、ここでは特許データとの接続を行って、意匠創作者と特許発明者の関係について定量的な分析を行った。

具体的には、まず日本特許庁に出願された特許権及び意匠権のデータから、発明者・創作者の同一人物の同定(Disambiguation)を行った。更に、それぞれのデータベースにおける発明者IDと創作者IDを相互に接続することで、特許発明と意匠創作の両者を行っているデザイナーの特定を行った。この情報を用いることで特許発明と意匠創作を同時に行っている人を特定することができる。ここではすべての意匠権において、特許発明も行っている意匠創作者が関与するものの割合について、意匠商品分類や出願年別に見ることで、意匠権データの特性について明確にした。なお、意匠権を使った実証研究は、欧米においてもあまり進んでおらず、本研究で構築したデータベースや分析内容は世界的に見ても先駆的なものである。

下図では意匠権出願件数全体について、特許発明を行っている創作者を含むものと含まないものに分類して、それぞれの出願件数を出願年別に見た。まず、全体として、特許発明者を創作者と含む意匠権の件数はそうでないものを上回っており、多くの意匠権が技術的イノベーションの成果を保護するものであることが分かった。従って、意匠権データを純粋なデザイン活動の代理変数として用いる際には、発明者による意匠権を除くなどの処理を行う必要があることが分かった。ただし、発明者を含まない純粋なデザイン活動の成果としての意匠権数の割合は上昇傾向にある。これは、発明活動と意匠活動について、人レベルの役割分担(Division of Innovative Labor)が進んでいることを示している。このような傾向は大企業を中心に見られ、企業内でデザイナーとエンジニアの役割分担を進めている動きとしてとらえることができる。つまり、特に大企業において、製品開発のプロセスで企業内のエンジニアが意匠創作も行うエンジニアリング型工業デザインから、独立のデザイナーを抱えて製品開発において、機能だけでなくデザイン性(意味的価値)を重視する動きが進んでいると考えられる。

図:特許発明者を創作者として含む意匠と含まない意匠件数(出願年別)
図:特許発明者を創作者として含む意匠と含まない意匠件数(出願年別)

技術的活動とデザイン活動の分業が進むことで、専門的なデザイン人材が育成され独立系デザインハウスの設立など、組織を超えたイノベーションの協業にも寄与していると考えられる。オープンイノベーションを推進するための税制や補助金などの政策は、技術面での協業にフォーカスしたものとなっているが、デザイン面でのオープンイノベーションの支援策についても検討すべきである。