ノンテクニカルサマリー

高齢者関連政策への政策選好:大規模コンジョイントサーベイ実験による解明

執筆者 川田 恵介 (東京大学)/殷 婷 (研究員)/吉田 雄一朗 (広島大学)
研究プロジェクト 日本と中国における介護産業の更なる発展に関する経済分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

マクロ経済と少子高齢化プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「日本と中国における介護産業の更なる発展に関する経済分析」プロジェクト

世界でもまれなペースで少子高齢化が進展する日本社会においては、年金や公的医療保険、介護政策など、高齢者との関連性が高い政策トピックスが選挙における重要な争点となってきた。これらの政策に対しては、高齢者だけでなく、現役世代、とくに中高年層の関心が強いことも予想される。

このような社会背景のもとで、当該政策への支持を問う世論調査は、学術機関のみならず新聞やTVなどの報道機関においても繰り返しなされてきた。しかしながら、既存の調査では各政策トピックスへの支持を個別に調査しており、“政策パッケージ”としての支持を明らかにできる構造にはない。

他方、実際の選挙結果から各政策トピックスへの支持を明らかにすることにも、大きな困難が存在する。各政党が掲げる選挙公約においては、各トピックス間に相関が存在する。このため、個別の政策トピックスへの支持を推計することは極めて困難である。

そこで本調査ではコンジョイント実験法と呼ばれる手法を用いることで、政策トピックスをパッケージとして提示しつつ、各トピックスへの支持を明らかにすることを狙った。特に完全ランダム化コンジョイントデザインと呼ばれる手法を用いることで、推計上の仮定を最小限にとどめた。また、本調査は2万名を超える40歳以上の回答者を対象とした、極めて大規模な調査であり、高い頑強性を有している。 回答者が有する政策への支持は、以下の図にまとめられる。

図:政策への支持の増減
図:政策への支持の増減

同図は4つの政策トピックス(年金、介護保険料、介護保険の中身、医療保険)について、現状から“改革”することへの平均的な支持を示している。横軸は政策パッケージへの支持率の変化を表し、例えば年金支給年齢を引き上げた場合、政策パッケージへの支持は20%程度低下することを示している。

同図からは、特に年金の支給年齢引き上げと介護保険料負担増加が政策支持を大きく低下させることが分かる。これに対して、現役世代並みの所得がある高齢者に対する医療費自己負担の増大は、支持を増加させることを示している。すなわち“有権者”に負担を強いる政策であったとしても、対象や項目に応じて支持構造が異なっている。また、混合介護の拡大は、保険の対象となるサービスの拡大と同程度に、政策支持を押し上げることも明らかになった。

以上の結果は、介護サービスの種類を充実させることへの希望が大きい一方で、介護保険料の増額への抵抗が強いことを示している。こうした中、混合介護は回答者からの一定の支持を受けている。これは、混合介護が介護サービスを充実させる一方、費用の自己負担が必要であるものの、介護保険制度の持続可能性を保つための介護保険料の増額を避けられるため、支持されている可能性を示唆している。