このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「生産性向上投資研究」プロジェクト
21世紀に入ってから、研究開発に多額の費用がかかるため、研究開発の効率性や収益率の低下を懸念する議論が増えている。Nick Bloom, Charles Jonesスタンフォード大学教授らによれば、企業の研究開発活動の選択が、経済全体の長期的な成長経路を決める内生的経済成長理論の下では、研究開発の効率性は、研究開発投資がどれだけ生産性を向上させるかによって測られる(すなわち、研究開発効率性=生産性上昇率/研究開発支出)。この方法で考えると、近年、研究開発に多額の費用がかかり、それに対して生産性の向上が思わしくないため、いわゆる研究開発投資の効率性は低下しているのではないかと考えられる。実際、Nick Bloomらの論文では、半導体などのミクロレベルの技術進歩でそうした現象が生じているとの報告がなされている。本論文は、こうした課題について、日本及び先進国の産業レベルデータを利用して、実証的に検討しようとする試みである。
まず日本産業生産性データベース(JIPデータベース)を使って、20年間(1995年から2015年)の研究開発効率性を直接計測すると、研究開発効率性の低下(後半の10年の研究開発効率性は前半10年の研究開発効率性よりも低い)は産業毎に異なることが分かった。日本産業生産性データベース(JIPデータベース)と対応可能な、生産性の国際比較のためのデータベース(EUKLEMSデータベース)を利用して英米仏独と比べると、日本の製造業は、他の先進諸国に比べてそれほど効率性の低下は大きくないことが分かった。しかし情報サービス産業では、日本の場合、後半の10年の平均生産性上昇率がマイナスになってしまい、本来プラスであるべき研究開発効率性について計測できなかった。他の先進諸国における情報サービス産業の研究開発効率性もドイツを除いて低下しているものの生産性上昇には寄与していることを考えると、日本の情報サービス産業の研究開発効率は深刻な状況ではないかと考えられる(下表参照)。
次に計量的に研究開発効率性を計測すると、研究開発効率性がプラスであることは確認できるものの、後半の10年間が有意に低いという結果は得られなかった。またICT投資の動向によって研究開発効率性が変化するかどうかも検証したが、ICT投資が研究開発効率性の向上に寄与するという結果は得られなかった。こうした点については、より一層の検証が必要である。
先進諸国は、いずれも研究開発投資の規模を拡大することで、生産性の向上につなげる政策を行っているが、今後とも、研究開発投資の規模だけに注力するのではなく、同時にこうした研究開発効率性の動向を踏まえた政策的対応も必要である。
- 参考文献
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- Bloom, Nicholas, Charles Jones, John Van Reenen, and Michael Webb (2019) "Are Ideas Getting Harder to Find?" Version 3.0 Stanford University.