ノンテクニカルサマリー

技術占有度と集積の外部性に関する実証研究

執筆者 松本 久仁子 (文部科学省科学技術・学術政策研究所)/元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究」プロジェクト

「特定の産業に特化した集積(地域特化の経済)」と「多様な業種の集積(多様性の経済)」のどちらがイノベーション活動を促進する効果があるのか、すなわち、集積する企業の構成が都市のイノベーションや成長に与える効果(集積の外部性)を明らかにするための研究が、都市経済学や地域経済学の研究者を中心に進められている。これまで多くの実証研究が行われているが、対象地域や対象期間の違い、また分析モデルに適用する変数の定義によって、分析結果の解釈が大きく異なっており、地域特化の経済(MARの外部性)を支持する研究、多様性の経済(Jacobsの外部性)を支持する研究の双方があり、どちらがイノベーションを促進させる効果があるのか現状では明確な結論は出されていない。近年の実証研究では、集積する産業間の関連性(Caragliu et al. 2016)、産業のライフサイクル(Neffke et al. 2011)、地域のサイズ・集積度(Fu & Hong 2011)によって集積の外部性の効果に違いがみ見られるかを明らかにする研究が進んでいる。しかし、技術の特性に着目した研究はまだ少ない。

技術の特性に関する研究の1つにセクター・イノベーション・システム論というものがあり、当該研究において、技術の特性が企業のイノベーション活動や地理的分布に影響を与えていることが明らかにされている(Malerba & Orsenigo 1990)。そのため、技術の特性がイノベーションの集積の外部性に影響を与える可能性があると考えられる。

そこで、本研究では、技術の特性(技術占有性)と集積の外部性の関係を明らかにするため、日本の特許データを属性情報とした市区町村単位の空間データを用いて、2001年・2006年・2012年の3時点でのパネル分析(固定効果モデル)を実施することにより、技術占有度を特徴づける3つの指標(技術集中度、参入障壁、発明人順位安定性)(注1)の外部性がイノベーション活動に与える効果との関係を明らかにすることを試みた。

その結果、同分野の発明人の集積(地域特化の経済)によって特許発明が促進されること(正の外部性)および異分野の発明人の集積(多様性の経済)によって特許発明が抑制されること(負の外部性)が確認された。そして、技術占有度との関係を見ると、地域特化の経済による特許発明の促進効果は、技術占有度の低い(特許発明が特定の発明人に集中しにくい、参入障壁の低い、特許出願数シェアの順位変動の激しい)技術分野において強まることが観察された。一方、多様性の経済による特許発明の抑制効果は、技術占有度の高い(特許発明が特定の発明人に集中しやすい、参入障壁の高い)技術分野において強まることが観察された。

これらの結果を総合すると、集積による経済外部性に着目した地域クラスター政策としては、他の地域と比べて比較優位の高い技術を集中的に集めることが適切であるという結果が得られた。なお、この方向性は、技術占有度の低い(特許発明が特定の発明人に集中せず、参入障壁の低い、特許出願数シェアの順位変動の激しい)技術分野(図1参照)については特に重要である。また、特定の地域内に多様な技術を取り込むことは、集積の効果という観点からは逆効果となることにも留意が必要である。

図1:技術占有度の低い技術分野(2001年・2006年・2012年の平均z値)
図1:技術占有度の低い技術分野(2001年・2006年・2012年の平均z値)
[ 図を拡大 ]
脚注
  1. ^ 技術集中度とは、どれだけ特定の特許発明人にイノベーション活動が集中しているのかを示す指標であり、分析対象時点までの6年間の発明人別特許出願数のハーフィンダル指数を用いる。参入障壁とは、新規発明人の参入しにくさを示す指標であり、分析対象時点までの6年間における全特許発明人のうち後半3年間に初めて特許出願を行なった発明人割合を1から引いた値を用いる。発明人順位安定性とは、発明人の特許出願シェアの順位の安定性を示す指標であり、分析対象時点までの6年間の前半3年間と後半3年間における、特許発明人の特許出願数シェア順位のスピアマン順位相関係数を用いる。
参考文献
  • Caragliu, A., de Dominicis, L. & de Groot, H.L.F., 2016. Both Marshall and Jacobs were Right! Economic Geography, 92(1), pp.87–111.
  • Neffke, F. et al., 2011. The Dynamics of Agglomeration Externalities along the Life Cycle of Industries. Regional Studies, 45(1), pp.49–65.
  • Fu, S. & Hong, J., 2011. Testing Urbanization Economies In Manufacturing Industries: Urban Diversity Or Urban Size? Journal of Regional Science, 51(3), pp.585–603.
  • Malerba, F. & Orsenigo, L., 1990. Technological regimes and patterns of innovation: a theoretical and empirical investigation of the Italian case. Evolving technology and market structure, pp.283–305.