執筆者 | 蟹 雅代 (帝塚山大学)/元橋 一之 (ファカルティフェロー) |
---|---|
研究プロジェクト | IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究 |
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
イノベーションプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究」プロジェクト
企業における外部組織との連携に関する研究では、企業単位やアライアンス単位のデータを用いて分析が行われているため、前者では組織要因の分析に限定され、後者ではアライアンスを行わない(自前主義)戦略を取り扱うことができない。そこで、本研究では、新商品開発プロジェクト単位で調査したアンケートデータ(日本企業の事業部門を対象として経済産業研究所が実施)を利用して、新商品開発プロジェクトにおける技術導入戦略について、図に示すフレームワークで定量分析を行い、以下のような結果を得た。
まず、プロトタイプ作成の際に外部技術を取り入れるか否かのプロビットモデル分析では、探索型プロジェクト(ノン・コアビジネス:当該新商品のカテゴリー≠主要事業カテゴリー)で導入の可能性が高まることが分かった(仮説1)。次に、外部技術の導入戦略を共同研究開発といった相手先と協働する「双方向型の導入」と、ライセンス・インのような協働無しに金銭的取引を主とする「片方向型の導入」の2つに分け、「完全に自社開発」(外部技術導入なし)を加えた3つの戦略オプションの選択に関する多項ロジットモデル分析を行った。その結果、大企業グループでは探索型プロジェクトで片方向型の導入の可能性が高まる一方、小企業グループでは探索型プロジェクトで双方向型の導入の可能性が高まることが分かった(仮説2)。また、市場主導型のプロジェクト(顧客アイディアの新商品)の場合双方向型の導入、技術主導型のプロジェクト(大学アイディアの新商品)の場合片方向型の導入が行われやすくなることが示された(仮説3a,b)。さらに、市場主導型のプロジェクトでは、探索型の方がそうでない場合と比べて双方向型の導入の可能性が高まるが(仮説4a)、逆に、技術主導型のプロジェクトではその可能性は低下することを示した(仮説5a)。
近年、オープンイノベーションに強い関心が集まっている。オープンイノベーションのアプローチでは、企業は社内だけでなく社外のアイディアも取り入れて価値を生み出しており、また社内のアイディアを社外に出して外部で活用される場合もある(Chesbrough, 2003)。本研究では、自社が主体となり開発された新商品プロジェクトを分析対象として、その開発過程における外部技術の活用を検証しており、オープンイノベーションのうち社外から技術や知識を取り込む活動についてエビデンスを提示している。本研究の定量分析の結果に基づくと、新商品開発においてこのような戦略を行うには、プロジェクトのタイプによって適切な導入手段が存在することが推察される。また、本研究は知識管理(知識活用の効率化、連携相手の情報の流れ)の概念をベースにしており、外部組織を活用する上での知識管理の重要性を再確認するものである。特に、中小企業などこれまで外部連携の経験が少ない企業に対しては、ガイドラインや白書などによる情報提供が有益であると考えられる。
- 文献
-
- Chesbrough, H. 2003. Open innovation: the new imperative for creating and profiting from innovation. Harvard Business School Press: Cambridge, MA.