ノンテクニカルサマリー

異質な労働者の居住選択と世代交代を通じた都市集積

執筆者 猪原 龍介 (亜細亜大学)
研究プロジェクト イノベーションを生み出す地域構造と都市の進化
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム(第四期:2016〜2019年度)
「イノベーションを生み出す地域構造と都市の進化」プロジェクト

1.背景

都市ではさまざまな地域から多様な労働者が集まり、活発に交流することで創造性や生産性が上昇し、そこで得られる賃金上昇はさらなる労働者を引きつける。Jacobs (1961)によれば、都市において多様な労働者が交流し、互いに刺激し合うことで都市の創造性が獲得されており、以降多くの研究において、労働力の異質性が生産性や創造性に与える影響が分析されている。一方で、Berliant and Fujita (2008、2012)などに見られるように、長期的な集積は労働力の均質化を生むことも懸念される。

2.分析

本研究では、労働力の多様性に関する集積の経済と集積の不経済に着目する。ここで提示する2地域非重複世代モデルでは、労働者は各期の期初に生まれ、居住地を選択して働き、期末に経済から退出する。各期の出生分布は、前期の労働者(つまり親世代)の居住分布に等しいものとする。また労働者は出身地に応じて差別化されるものとし、出身地以外の地域で働く場合は(文化的差違に対応するための)調整コストがかかるものとする。以上の枠組みの下で、世代交代を通じた労働分布の推移と都市集積について分析を行った。主要な結論は以下の通りである。(i) 労働者の居住分布は短期的には分散化するが、長期的には世代交代を経て出生分布は集中化構造に収束することが示された。下図は労働者の出生人口分布の推移を示したものであり、L1tt期の労働者の出生分布(地域1のシェア)として、f(L1t)はその期に地域1に居住することを選択した労働者分布を表している。これがt+1期の出生労働者分布と等しくなることを考慮すると、出生人口比率が1/2の対称構造は定常状態であるものの不安定であることが分かる。つまり、何らかの偶発的な攪乱要因により仮に地域1の出生数が地域2よりもわずかでも多くなる状況が起こると、そこから労働者の地域1への流入が始まるため、出生労働人口の対称構造が崩れ、長期的に労働力は地域1に集中化することになる。

図

一方で社会的厚生(ここでは全労働者の効用の総和)の最大化については、(ii) 社会的厚生は出生分布が分散化したときに最大化されることが示された。結果、定常均衡では社会的最適が達成されないことがわかる。次に、以下のようにモデルを拡張することで、追加的結論を得た。(iii) 分散力として消費者が住宅を消費することを考慮した場合、定常状態において出生分布が分散化し、社会的最適が達成されうることが示された。逆に、(iv) 労働量に関する集積の経済を導入し、地域の生産性がその地域に居住する労働者数に応じて向上することを考慮した場合では、出生分布は社会的最適と比較して過度な集中化をもたらすことが示された。

3.政策的含意

人口分布は定常均衡と比べてより分散化することが望ましいという結論から、いくつかの政策的含意が得られる。例えば、住宅支出を増加させるための助成、居住地に関する選好の多様性を高めるための方策などは、労働力の分散力を強め、定常均衡として社会的最適を実現するために一定の効果が得られるかもしれない。また、都心大学の入学定員の厳格化などによって過度な地域間人口移動を直接規制することも考えられなくはないが、こうした政策には注意が必要である。すなわち、目的は都市部における労働力の多様性を維持することであり、移住規制につながる方策はむしろ都市部の労働力の多様性を減じることになりうる。要点は地域間の人口の循環を維持することにあるといえる。

参考文献
  • Berliant, M., Fujita, M. (2008) Knowledge creation as a square dance on the Hilbert cube. Interna- tional Economic Review 49: 1251-1295.
  • Berliant, M., Fujita, M. (2012) Culture and Diversity in Knowledge Creation. Regional Science and Urban Economics 42: 648-662.
  • Jacobs, J. (1961) The Death and Life of Great American Cities. Random House: New York.