ノンテクニカルサマリー

金融市場におけるコモディティ先物の分散効果

執筆者 金村 宗 (京都大学)
研究プロジェクト 商品市場の経済・ファイナンス分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業フロンティアプログラム(第四期:2016〜2019年度)
「商品市場の経済・ファイナンス分析」プロジェクト

本研究の背景

金融資産に対する代替資産という意味で、コモディティは一般的にオルタナティブ投資に分類される。オルタナティブ投資としてのコモディティの大きな特徴は、金融資産の価格変動に対し、コモディティの価格変動が頑強であるという点にある。この特徴はコモディティブームとなった2000年代後半までの期間において顕著に表われていた。本研究では、分散効果についての新たな1つのアイデアを提案するとともに、既存の研究とは異なるアングルから、金融市場におけるコモディティの分散効果について再考した。

本研究の目的

  • コモディティのポートフォリオへの組み込みによって、リターン分布がどのように変化するかという点(リスクの標準化)に注目し、コモディティ資産の金融ポートフォリオへの分散効果に関する1つのアイデアを示すとともに、それを(1)実証的に分析する
  • (2)金融に関する外生的な変数のあるコモディティと金融資産との時間変動型価格相関(頑強な微小相関)および(3)平均-CVaR(条件付バリューアットリスク)に基づく効率的フロンティア(リスク・リターンの相殺)という2つのアングルから、既存の研究とのギャップを埋める

本研究の結果(モデル)

  • リスクの標準化: ポートフォリオの分散効果に関する新たな1つのアイデアとして、ポートフォリオ・リターンが正規分布に近い度合いによって、ポートフォリオの分散効果の程度を定義することが提案された
  • 特に安定分布を援用し、商品の価格リターン分布の歪度パラメータβが、金融ポートフォリオのβと反対の符号を持つ場合、コモディティ込みのポートフォリオがなしのポートフォリオに比べてリターンがより対称的で正規分布に近づくという意味で、商品ポートフォリオに分散効果があるということが示された

本研究の結果(実証分析)

  • ポートフォリオの分散効果を調べるため、S&P 500・米国10年債およびDJ-AIG商品指数(CI)を用いた実証研究を行った
  • (1)リスクの標準化:ポートフォリオ・リターンの分布のパラメータ推定結果、(2)頑強な微小相関:金融に関する外生変数のあるDCCモデルを用いたS&P500または米国10年債とDJ-AIG CIとの条件付き相関の計算結果(Figure 3)、ならびに(3)リスク・リターンの相殺:S&P500・米国10年債・DJ-AIG CIについての平均-CVaR最適ポートフォリオを利用した効率的なフロンティアの導出結果(Figure 6)によれば、特にFigure 3ではコモディティが金融資産の影響を受けないという意味で、Figure 6ではコモディティを入れたポートフォリオがコモディティを含まないポートフォリオに比べて同じリターンに対して小さいリスクに留まるという意味で、いずれの場合においても商品は金融市場への分散効果があるとの結果が導かれた
図

本研究の政策的インプリケーション

  • 日本の金融市場の活性化に向け、東京商品取引所(TOCOM)などのコモディティ市場を整備・強化することが、投資家のリスク分散の立場より有益である可能性が高い
  • コモディティブーム再来時には、金融資産へのコモディティの組み込みがリスクとリターンの関係より有効である蓋然性が高い。たとえば、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用において、コモディティの組み込みが有益に働く局面が将来的に現れる可能性も否定はできない
  • 資産の価格リターン分布の歪度パラメータβに関する情報を金融市場・コモディティ市場双方が発信することで、投資家に対し、金融資産の分散効果におけるコモディティの有効性に対する情報を提供することが可能となり、両市場における取引の活性化に繋がることが期待される