ノンテクニカルサマリー

企業年齢、企業規模と雇用のダイナミックス:日本の企業データに基づく分析

執筆者 劉 洋 (研究員)
研究プロジェクト RIETIデータ整備・活用
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

特定研究(第四期:2016〜2019年度)
「RIETIデータ整備・活用」プロジェクト

多くの国で、成長戦略の1つとして、設立年数が短い企業や、小規模の企業に補助政策が出されてきた(Arkolakis et.al. 2017)。また、企業年齢と企業規模が雇用の純増減に及ぼす影響について、国内外で数多くの研究が行われてきた。しかし、個々の企業における雇用の純増減は、その企業の雇用創出と雇用喪失の差であるが、企業レベルでの雇用創出と雇用喪失それぞれに与える影響はまだ明らかになっていない。そこで本研究は、日本の大規模の企業データ(経済産業省「企業活動基本調査」)を用いて、企業の設立年数と規模が雇用創出と雇用喪失に与える影響を検証する。

理論の背景は、企業の最適化行動に基づく雇用創出(job creation)と雇用喪失(job destruction)のモデルである(Cahuc and Zylberberg 2004, Pisserides 2000)。企業が期待利潤の最大化条件に基づいて、新しいジョブ(job)の創出を決める。それと共に、既存のジョブのうち、期待利潤がゼロを下回るジョブを廃止する企業の年齢と規模が、企業の期待利潤に影響することを通じて、企業の雇用創出および喪失に影響を与える。

本研究の主な結果として、企業の年齢が上がると、雇用創出と雇用喪失が低下すること、しかし、企業の規模が拡大すると、雇用創出は減少するが、雇用喪失は増加することが示された(表1)。解釈として、企業の年齢と規模が増加すると、新しい雇用から得られる期待利潤が少なくなるため、雇用創出が減少することとなる。雇用喪失については、設立年数が長い企業では、業務経験の積み重ねで期待利潤がゼロを下回る既存雇用の数が少ないため、雇用喪失が少ないが、企業が規模を拡大すると、マネジメントの課題が増え、期待利潤がゼロを下回る既存の雇用が多くなるため、雇用喪失が増加することとなる。

また、いくつか頑健性のチェックを行った。まず、製造業とサービス業を分けて推計を行ったところ、ほぼ同じような結果が得られたが、規模が製造業の雇用喪失に与える正の影響のみ有意でなかった。サービス業と比べて、製造業企業の規模拡大で雇用喪失に与える影響が小さいことが示された。それから、親会社と子会社の影響をコントロールした推計と、設立年数が10年以上の企業に限定した推定では、サンプル数は減少したものの、それぞれ主要モデルと同じ結果となった。

なお、本研究の留意点として、まず、用いられたデータでは従業員50未満の企業および資本金3000万円未満の企業が除外されたため、結果の解釈は従業員50人以上かつ資本金3000万円以上の企業に限定されている。それから、本研究は企業の最適化行動に基づくモデルを用いたため、存続企業を研究対象(新規設立の企業と廃業する企業が除外)としている。

最後に、政策含意として、企業の規模と設立年数に応じた政策支援が有効であることが示された。たとえば、規模が比較的小さい企業に支援すると、より多くの雇用が創出されるとともに、雇用喪失は、より少ないことが期待できる。

表1:企業年齢と規模が雇用創出、雇用喪失および雇用の純増減に与える影響
雇用創出 雇用喪失 雇用の純増減
企業年齢による影響 -3.02 -1.81 -1.18
[-29.03]*** [-17.81]*** [-18.59]***
企業規模による影響 -1.82 0.29 -1.51
[-13.75]*** [3.35]*** [-11.33]***
観測値 419217 419217 419217
文献
  • Arkolakis, Costas, Theodore Papageorgiou, and Olga A. Timoshenko. "Firm learning and growth." Review of Economic Dynamics (2017).
  • Cahuc, Pierre and André Zylberberg. Labor Economics, The MIT Press. 2004.
  • Pissarides, Christopher. Equilibrium unemployment theory 2nd, MIT Press, Cambridge. 2000.