ノンテクニカルサマリー

地域の雇用と人工知能

執筆者 浜口 伸明 (ファカルティフェロー)/近藤 恵介 (研究員)
研究プロジェクト 国際化・情報化新時代と地域経済
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第四期:2016〜2019年度)
「国際化・情報化新時代と地域経済」プロジェクト

近年、人工知能・ロボット・自動化に関する急速な技術進歩により人々の雇用が奪われるのではないかという懸念が高まっている。そこで本研究では、コンピュータ化による職業の代替確率を分析したFrey and Osborne (2017)の議論をさらに発展させることを目的とし、新たに都市・地方および男性・女性という視点からコンピュータ化の雇用への影響を数量化・視覚化している。そして、今後求められる雇用政策や教育政策の対象グループをより明確にできるような政策的含意を探っている。

図1で示されるように、「国勢調査」(総務省統計局)の都道府県別データを用いた分析の結果、男性の場合、大都市圏ほどコンピュータ化されにくい職業に就いている労働者の割合が高く、コンピュータ化に対する雇用リスクが大都市圏で低くなる一方で、女性の場合、全く逆の傾向を示すことがわかった。つまり、図1(c)で示すように、大都市圏ほど、男性に対して女性はコンピュータ化に対する雇用リスクが相対的に高くなっていることが明らかになった。

図1:コンピュータ化に対する雇用のリスクスコアと都市規模の関係
図1:コンピュータ化に対する雇用のリスクスコアと都市規模の関係
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注)2010年の「国勢調査」(総務省統計局)とFrey and Osborne (2017) のコンピュータ化確率により筆者計算。コンピュータ化に対する雇用のリスクスコアの詳細は論文を参照。パネル(c) における都道府県別のコンピュータ化に対する雇用のリスクスコアの男女比は、女性のリスクスコアを男性のリスクスコアで除して計算している。

さらに、「就業構造基本調査」(総務省統計局)の労働者個票データを用いた分析の結果、コンピュータ化確率の高い職業ほど就業者の平均教育年数の値が低い傾向にあり、労働者がコンピュータ化されにくい職業へ転職するには追加的な人的資本投資が必要とされることが示唆される。

本研究の政策的含意に関して、多くの先行研究が指摘するように、コンピュータに代替される可能性が低いもしくは今後生まれる新たな職業へ転職ができるよう、雇用環境の整備や技能習得や能力開発の支援を行っていくことがコンピュータ化への雇用対策として重要である。具体的に必要とされる追加的な人的資本として、たとえば、新井(2010)で強調されているように、論理的に考えそれを言語化して人に伝える能力を身に付けていくことが重要であると考えられる。人工知能に関する技術は人間側の技能習得や能力開発を上回る速度で急速に進んでおり、我々自身が迅速に対応を取っていく必要がある。

コンピュータ化に対する雇用リスクは女性の方が相対的に高いことから、柳川(2017)が指摘したように、人工知能と雇用に関する議論は、現在議論が進んでいる働き方改革や女性活躍推進とも密接に関連している。特に、人工知能が人間の活動を代替するばかりではなく、補完することも可能だという視点がより重要なことであり、今後人工知能をどのように活用すれば現状の問題を解決できるのかという視点を持つ必要性がある。たとえば、人工知能を活用して仕事の効率化をすすめることによって、長時間労働で会社への忠誠心を示す必要がなくなれば、コンピュータ化はよりよいワーク・ライフ・バランスを実現し、労働者の性別を問わず能力に基づいて評価される雇用環境の基盤にもつながると考えらえる。

文献
  • Frey, Carl Benedikt and Michael Osborne (2017) "The future of employment: How susceptible are jobs to computerisation?" Technological Forecasting and Social Change 114, pp. 254–280.
  • 新井紀子 (2010) 『コンピュータが仕事を奪う』、日本経済新聞出版社、東京。
  • 柳川範之 (2017)「働き方改革、AI と不可分」、『日本経済新聞』。朝刊、経済教室、2017年3 月13 日付。