ノンテクニカルサマリー

1980年代~2000年代における基準認証行政―政策課題としての経済成長と製品価値向上施策の展開―

執筆者 河村 徳士 (リサーチアソシエイト)
研究プロジェクト 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト

本稿は基準認証行政が1990年代後半以降、経済成長政策の一環として重視された意義を歴史的な考え方に基づきながら考察するものである。経済成長の鈍化が常態化し始めた1990年代の後半あたりから、経済成長が重要な政策課題として浮上し、1980年代から既定路線と化した行政関与を限定する規制緩和を前提としながら成長政策を模索せざるを得なくなった日本政府は、市場機能の強化による企業間競争の成果に期待したと同時に、革新的な企業行動の支援をも通産省に期待した。

産業政策を後退させていた通産省は、国際的に先行していた製品価値を高める標準の効果を認め、標準を利用した企業戦略の立案を後押しする試行錯誤を進めており、基準認証行政は行政関与が限定された中で経済成長を促す手段として重視されたと考えられる。高度成長期に素材産業や機械工業を中心とした標準化を進めた基準認証行政は、1970年代以降、通商摩擦に応じた国際標準化、新素材や情報通信関連産業における標準化の推進など政策課題を多様化させ(表参照)、1990年代半ばから国際標準化活動への関与を具体的な政策目標としながら日本企業の国際競争力強化を支援した。

表:工業標準化長期計画の推移
表:工業標準化長期計画の推移
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出典:工業技術院標準部編『工業標準化のあゆみ—工業標準化法施行40周年—』日本規格協会、1989年、39頁。

しかし、国際標準化に基づいた市場確保が日本企業の国際競争力強化に結実したのか否かはいまだ途上のものが多く、大きな効果を発揮したとは言い難い。一方で、衛生面、環境、福祉といった分野で標準化が進み成果を残しつつあること、規制緩和が進む中でさまざまな産業では強制法規の見直しが行われたが、その過程で法律に基づいた安全性などの基準をJIS規格で代替する対応が散見され、公的な標準化の意義を改めて考慮できる可能性があることなどが歴史的な意義としては重視できる。すなわち、何らかの器具やサービスのあり方に関して、社会的な視点から標準化を進めた意義を再考することができるであろう。