執筆者 | 河村 徳士 (研究員)/武田 晴人 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から― |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
政策史・政策評価プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「経済産業政策の歴史的考察―国際的な視点から―」プロジェクト
日本の高度成長期に関する最近の研究では、機械工業化を伴った高い経済成長という時代像が提示されており、そこでは、産業構成の「機械工業化」を強調することによって、産業における設備投資の牽引力と勤労者所得の増加に伴う消費拡大とを統合的に理解することが企図されていた。すなわち、機械工業は高い雇用吸収力、持続的な生産性上昇、関連機械工業への幅広い波及効果といった特色をもつものであり、企業利益の労働者への分配を通じて消費財需要を伸ばし、内需主導型の高い経済成長を継続する役割を果たした。それ故に機械工業化は高い経済成長を軌道づけるものであった。
本稿では、このような高成長経済という捉え方を念頭に置きつつ、産業政策が、経済発展の原動力となる機械工業の発展をいかに支えたのか、また企業行動と企業実態にどのような影響を及ぼしたのかを検証する。主として取り上げたのは、1956年に制定された機械工業振興臨時措置法(機振法)であり、本稿が明らかにしたことは以下のとおりである。
第1に、機振法における補助対象企業の選定においては技術審査と融資審査という二段階の選定作業が行われ、その第一段階の技術審査において業界の実態に即してもっとも望ましい技術選択が試みられた。この結果として、品質と価格の両面で効果が上がった(価格について表を参照)。
第2に、鉄鋼などの基礎資材の価格低下をもたらした産業合理化の推進が、機械生産のコスト低下に重要な意味を持った。機械工業化は、そうした政策の全体を通して実現されることになったものであり、単独の機械工業への政策助成措置に帰するべきではない。
第3に、部品生産の高度化・合理化が完成品生産の国際競争力の改善につながった経路についても、改めて検討すべき余地がある。本稿では、部品生産企業と完成品企業の財務状態に注目して、前者における資金制約を機振法の枠組みに基づく政策融資が解決する一方で、労働集約的な加工組立を主務とする完成品メーカーでは、労働生産性の上昇に限界があったことに加えて、原材料在庫などの流動資産の増大に伴う資金負担が解決すべき経営課題となった。それ故にこそ、生産現場におけるOJTや改善運動などの生産方式の工夫やJITによる部品在庫の削減などが主要課題となり、これに取り組んだ完成品メーカーの企業努力が産業発展の主要な要素として注目されてきたということであろう。したがって、完成品メーカーの国際競争力の強化が機振法などの措置によって直接効果を及ぼす範囲は限定されていたが、他方で、自発的な企業努力が十全に機能しうるような基盤として高品質低価格の部品供給が実現されてきたことの意義も軽視はできないということになろう。
このような捉え方から示唆されているのは、産業政策を論じる分析視角として、一方で複数の産業政策がもたらす複合的な効果を適切に評価しうるような広い視野を持つこと、他方で産業に関わるさまざまな政策措置を、市場への政策介入として企業行動の自由や市場メカニズムの効率性を損なうという見方に拘泥せず捉える自由度を持つことが必要であるよう思われる。このような視点から、合理化・近代化などを通して国際競争力強化という観点で進められた産業諸政策や、企業活動の基盤を整備したインフラ投資などを改めて見直すことは、今後の課題である。
主要部品コストの平均 | 70.6 |
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ピストン | 71.6 |
ピストンリング | 76.3 |
燃料ポンプ | 63 |
放熱器 | 75.3 |
電装器 | 70 |
点火プラグ | 68.6 |
照明器 | 71.5 |
ブレーキ表張 | 74 |
自動車用線バネ | 72 |
ショックアブゾーバー | 64 |
出典:国立国会図書館調査立法考査局『わが国自動車工業の史的展開』、1978年、212頁。 |