ノンテクニカルサマリー

企業の技術吸収力が外部技術の取り込みに与える影響:内外R&Dリソースの水平的・垂直的関係における実証分析

執筆者 藤川 直人 (東京大学)/元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 日本型オープンイノベーションに関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

イノベーションプログラム (第四期:2016〜2019年度)
「日本型オープンイノベーションに関する実証研究」プロジェクト

本稿はグローバルに活動する大手製薬企業22社のデータセットを用い、自社研究に対する自己努力および能力のそれぞれが外部の研究開発資源を取り込む意思決定にどう影響しているかを分析したものである。分析にあたっては、研究開発プロセスをR&Dの上流段階である研究(R)と下流段階である開発(D)に区分し、研究・開発それぞれの段階における外部からの研究開発資源の取り込みに対し、企業内部の研究活動がどのような効果を与えているかを個別に検討した。

検討の結果、自社において初期研究に多くの努力を行う企業は、研究開発段階の初期・後期の両段階において外部資源を積極的に取り込むことが確認された。一方、自社における研究能力が高い企業は、研究段階における外部資源の取り込み(水平型提携)に消極的となるが、開発段階における外部資源取り込み(垂直型提携)には積極的となることがわかった。なお、開発段階における積極性は、市場の成長力が高まるにつれて減弱し、市場性による緩和効果の影響を受けるものであった。

図

研究機関から生み出されたイノベーションのシーズを事業化に結びつけるには、シーズを生むベンチャーを育成し、生み出されたイノベーションを企業が有効活用するために効果的な産学連携策およびオープンイノベーション促進策が求められる。研究プロジェクトへの投資といった自社研究のための努力が外部提携を促進するという今回の結果は、企業がベンチャーなどによって生み出されたイノベーションの受け手となるに際し、まずその企業自身が内部における初期研究に十分な自己努力(投資)を行っている必要があることを示している。政策的見地からは、この結果は企業における初期研究への投資を促進するための施策(たとえば、研究開発税制面からの支援)がオープンイノベーションを促進する上で重要となることを示唆する。また、自社における研究能力が高い企業ほど垂直型提携に積極的になるという結果は、研究開発の上流・下流それぞれの強みを集約するような業界再編を促し、その上で互いの強みを活かした提携をサポートしていくことがイノベーションを効率よく製品化につなげるために有効となる可能性を提示している。