執筆者 | 村上 弘毅 (東京大学) |
---|---|
研究プロジェクト | 持続的成長とマクロ経済政策 |
ダウンロード/関連リンク |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
新しい産業政策プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「持続的成長とマクロ経済政策」プロジェクト
多くの財・サービスには、下図に示されるようなライフ・サイクル(製品ライフ・サイクル)が存在することが知られており、経営学などでは一種の定式化された事実として確立されている。しかしながら、経済学、とりわけ内生的経済成長理論では、この事実は無視されてきた。
本稿では、製品ライフ・サイクルが存在下における企業の行動を考察し、新たな製品を生み出すプロダクト・イノベーションのための研究開発(R&D)がどのような水準に決定されるのか、さらに、プロダクト・イノベーションの結果、企業の成長がどのように決定されるのかを理論的に分析した。
本稿の分析では、以下の仮定を置いた。
- 各種の財・サービスの利潤および売り上げがその「年齢」(市場に登場してから経過した時間)に依存し、その利潤および売り上げに上限値および下限値が存在する(上図参照)。
- プロダクト・イノベーションの確率は、企業がR&Dを通じて制御する「新製品の出生率」なるパラメータによって決定される。
- R&D支出の規模は、「新製品の出生率」に応じて決定される。
1.の仮定は、上図に示されるような製品ライフ・サイクル理論を反映したものであり、2.および3.の仮定は、プロダクト・イノベーションを確率的な現象として捉え、R&Dをその確率を増加させることとして描写していることを意味している。
本稿の分析の結果、最適な「新製品の出生率」は、製品ライフ・サイクルの形状によって定まる利潤関数、R&D支出を定める費用関数および利子率が定まれば一意に決定されることが判明した。また、その最適な「新製品の出生率」に対応する最適なR&D計画上で得られる売り上げの期待値の成長率(企業成長率)は、時間の経過とともに「新製品の出生率」に収束することも判明した。この事実は、各財・サービスが製品ライフ・サイクルに従う場合に、長期的な企業の成長は、プロダクト・イノベーションひいてはそのためのR&Dによってのみ維持されるという結論を導き出す。
本稿の理論分析の枠組みは、法人税および補助金(R&D減税などを含む)がプロダクト・イノベーションおよび企業成長に与える影響を定量的に評価する際の足掛かりになるものである。