ノンテクニカルサマリー

サービス貿易と生産性

執筆者 森川 正之 (理事・副所長)
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

その他特別な研究成果(所属プロジェクトなし)

1.問題の所在

サービス貿易の重要性が増大している。世界全体のサービス輸出総額のモノ輸出総額に対する比率は1980年の約18%から2013年には約25%に上昇した。日本はサービス貿易のモノ貿易に対する比率が主要国の中では低いが、サービス輸出の伸びはモノ輸出の伸びを上回っている。また、円安が急速に進行する中、モノの輸出の伸びが弱いのに対して、外国人観光客の著増などサービス輸出は着実に増加しており、マクロの景気循環に対するサービス貿易の重要度も高まっている。

最近の国際貿易の研究では、「企業の異質性」に焦点を当てた研究が急速に進展している。企業のミクロデータを用いた研究も多数行われており、企業の規模や生産性とグローバル化の間に密接な関係があることを明らかにしてきている。具体的には、輸出や直接投資を行っている企業は少数であること、それら企業は規模が大きく、生産性や賃金が高いことなどが定型化された事実となっている。しかし、輸出入に関するこれまでの研究の多くはモノの貿易を対象にしてきており、サービス貿易を対象とした企業レベルの実証研究は大幅に遅れている。

モノの貿易に関しては累次にわたり関税・非関税障壁の引き下げが行われてきたが、サービスは比較的多くが規制の対象となっている。また、サービス貿易は、生産と消費の同時性というサービス固有の性質、サービスの質の違いに起因する情報の非対称性もあって国境障壁が高い。

こうした状況を踏まえ、本稿は、日本企業を対象としたパネルデータを使用し、サービス貿易と生産性をはじめとする企業特性の関係を分析する。

2.データおよび分析内容

「企業活動基本調査」(経済産業省)は、2009年度(平成22年調査)から企業レベルのサービス貿易を調査事項として追加した。具体的には、「モノ以外のサービスに関する国際取引」について、「海外からの受取金額」、「海外への支払金額」の総額及び内数として関係会社との取引額を調査している。しかし、このデータを用いたフォーマルな研究はほとんど行われていない。

本稿は、同調査の2009~2012年度のパネルデータを作成し、サービス貿易の実態、サービス貿易を行う企業の特性について観察事実を整理する。具体的には、(1)サービス貿易実施企業数・構成比、売上高に対する比率等の集計、(2)企業規模、生産性(TFP)、賃金の非国際化企業、モノ輸出企業との比較、(3)生産性、賃金を被説明変数とし、企業規模、年ダミー、産業を説明変数としたシンプルな回帰分析、を行う。

3.分析結果と政策的含意

分析結果によれば、(1)モノの貿易を行っている企業(約21%)に比べてサービス貿易を行っている企業はずっと少数(約6%)であり、サービス輸出が売上高に占める割合も少ない。(2)サービス輸出・輸入いずれも、モノの貿易に比べて関係会社間の取引(「企業内貿易」)の比率が高い。(3)サービス輸出企業は非輸出企業に比べて生産性や賃金が高く、モノ輸出企業と比べてもずっと高い(下図参照)。(4)「企業の境界」を越えて関係会社以外にサービス輸出を行っている企業の生産性は、関係会社のみにサービス輸出を行っている企業に比べて高い。

図:非輸出企業、モノ輸出企業、サービス輸出企業の生産性分布
図:非輸出企業、モノ輸出企業、サービス輸出企業の生産性分布

以上の結果は、サービス貿易を行うに当たっての固定費用がモノの貿易以上に大きい可能性があり、したがって、企業活動のグローバル化を促進する上で、サービス貿易を自由化・円滑化する政策が重要な役割を果たしうることを示唆している。