執筆者 |
張 紅咏 (研究員) 朱 連明 (京都大学) |
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研究プロジェクト | グローバルな市場環境と産業成長に関する研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「グローバルな市場環境と産業成長に関する研究」プロジェクト
問題意識
国際貿易において、輸出企業の生産性の他に、企業レベルの輸出価格、製品品質、マークアップの違いが近年注目を集めている。輸出企業のほうが、高品質な中間財を用いて高品質な財を生産し、高い価格やマークアップをつけている。また、中国に関する研究では、総輸出に占める外資企業の割合が高く、地場企業の輸出単価より外資企業のそれが高いことが指摘されている。しかし、なぜ外資企業の輸出単価が高いのか、外資輸出企業のマークアップも高いのかについては、まだ明らかになっていない。
本研究は、De Loecker, Goldberg, Khandelwal, and Pavcnik (forthcoming)に倣って、中国鉱工業企業・品目の個票データを用いて企業レベルのマークアップを計測し、外資所有と輸出・マークアップの関係を分析したものである。
データおよび分析内容
本研究は、「鉱工業企業統計」と「鉱工業品目統計」(中国国家統計局)の個票データを利用した。「鉱工業企業統計」は、鉱工業に属するすべての国有企業および売上高500万元以上の非国有企業の全数調査結果である。2006年の企業数は約30万社、鉱工業総生産高と総輸出額の70%以上を占めている。また、「鉱工業品目統計」は約20万社、500品目の財に関する生産動態調査である。各品目について月次生産高などの情報が入っている。この品目データを用いたフォーマルな研究はほとんど行われていない。
本研究は、この2つのデータの2000~2006年のパネルデータを作成し、輸出企業のマークアップ、外資所有と輸出・マークアップの関係について分析した。具体的には、(1)輸出企業のマークアップが高いのか、(2)外資輸出企業のマークアップが高いのか、(3)マークアップを価格効果と費用(限界費用)効果に分解し、どちらの効果がマークアップの高さを説明できるのかといった点について回帰分析を行った。
分析結果と政策的含意
分析結果によれば、(1)平均的には、非輸出企業に比べて輸出企業は高いマークアップをつけている。(2)しかし、外資輸出企業のマークアップはそれほど高くない。(3)マークアップを価格効果と費用効果に分解したところ、外資輸出企業は高い価格をつけているが、限界費用も高い(下図参照)。
以上の結果は、確かに地場輸出企業に比べて外資輸出企業の価格が高いが、多くの外資企業が加工貿易を行い、輸入中間財と労働を集約的に使用しているため、限界費用も高くなり、マークアップが低くなる可能性を示している。したがって、途上国にとって自国輸出企業の製品品質とマークアップを同時に改善するには、輸出プラットフォーム型の外国直接投資が果たせる役割が限定的であることを示唆している。