執筆者 | 浜口 伸明 (ファカルティフェロー)/近藤 恵介 (研究員) |
---|---|
研究プロジェクト | 地域経済の復興と成長の戦略に関する研究 |
ダウンロード/関連リンク | |
備考 |
2020年3月改訂案* |
このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム (第三期:2011〜2015年度)
「地域経済の復興と成長の戦略に関する研究」プロジェクト
*このノンテクニカルサマリーは、2020年3月のディスカッションペーパー改訂の際に修正しました。
本研究では、日本の特許データベースを用いて知識の新陳代謝活性化がイノベーションの質を引き上げるのかどうかを検証している。集積の経済は、一般的に、活発なface-to-faceコミュニケーションを通して新たな知識創造を促進すると考えられているが、一方で、長期的な関係が持続すると共有知識の肥大化によって質の高いイノベーション活動が阻害される可能性もある。したがって、いかに持続的に新しい知識を取り込むのかがイノベーション活動にとって重要になってくる。このような視点を知識の新陳代謝活性化として捉え、大卒者の地域間移動に着目することで、イノベーションの質に対する新陳代謝の効果を検証している。
本研究ではイノベーションの質の指標として審査官引用による被引用数を用いている。データはIIPパテントデータベースより特許の引用情報を利用している。また特許と地域の対応関係は発明者住所を用いており、発明者の地域情報と国勢調査の地域情報をマッチすることで新たにデータセットを構築している。本研究では国勢調査の個票データを再集計することで、大卒以上の地域間人口移動という知識の新陳代謝の指標が利用可能になっている。
我々の基本的な分析枠組みは、企業要因などその他の要因をコントロールしたうえで、地域要因が特許の被引用数に対しどのような影響を与えているのかを回帰分析することである。地域要因として、知識の新陳代謝(大卒者の入れ替え効果)、人口集積、大卒者比率、産業多様性を考慮し、イノベーションの質に対する効果を検証している。
図1は1980年と2000年に出願された特許について、特許の被引用数(審査官引用による)と大卒者の総移動量(大卒者の人口流入量と人口流出量の和)の関係を示している。図1(a)の1980年、図1(b)の2000年ともに、大卒者の総移動量が大きな地域ほど、被引用数が高い特許が存在することがわかる。ただし、大卒者の入れ替えが活発な地域であれば必ず特許の被引用数が高いという訳ではないことに留意しなければならない。つまり、被引用数がゼロの特許も多数存在しているのである。