執筆者 | 火 棟 (南京大学)/元橋 一之 (ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 日本型オープンイノベーションに関する実証研究 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本型オープンイノベーションに関する実証研究」プロジェクト
企業間のアライアンスの成果は、自社における技術的能力に加えて、相手企業の技術的能力との関係によっても左右される。アライアンスは自社にない技術を補完するために他社と協力して、双方によってウィンウィンの成果を獲得するものであると理解できる。ただし、自社と他社の技術領域があまりにも違いすぎると協業を行う際にお互いの技術理解がうまく進まないことから、かならずしもいい成果が生まれないということが実証的にも示されている。ここでは、これまで企業間アライアンスの研究において分析されてきた企業間の技術分野の違い(ここでは、関係による多様性:Relational Technological Diversity: RTDと呼ぶ)に加えて、企業内の技術ポートフォリオの広がり(ここでは、分布による多様性:Distributional Technological Diversity: DTDと呼ぶ)の2つの多様性指標を用いて、アライアンスの成果である技術的価値との関係について特許データを用いた分析を行った。
分析の結果としては、以下のとおりである(下図参照)。
- DTD(分布による多様性)と技術価値は正の関係にある。
- RTD(関係による多様性)と技術価値は負の関係にある。
- DTDと技術価値の正の関係は、RTDが大きいほど強くなる。
- RDTと技術価値の関係は、DTDが小さいと負であるが、DTDが大きい場合は正の関係になることがある。
つまり、一般的に、自社とは技術分野が大きく離れている企業とアライアンスを行って、自社にとってより新規領域の技術開発を行うことは通常難しいが(RTDと技術的価値の負の関係)、自社において十分な多様性があることで、技術の吸収能力(Absorptive Capacity)が大きいと、RTDが大きいアライアンスから十分な価値が引き出せるということである。
日本の大企業は、米国企業と比べて技術的な広がりが大きく、多角化が進んでいるといわれている。多角化が進みすぎると個々の分野に対する投資が小さくなり、特定分野における強みを発揮することが難しくなる。また、日本のエレクトロニクス産業は、事業多角化によって競争力を失い、選択と集中が必要である、という議論もある。しかし、企業がオープンイノベーション(技術的アライアンス)を進める上で、社内の技術的な多様性は重要なファクターであり、日本企業の技術的多角化を積極的に評価する結果といえる。ただし、その一方で自社内における技術的広がりを持ちにくい中小企業においては、自社との異なる分野でのアライアンスの困難性を示している。従って、政策的には、中小企業の技術的アライアンスについて、自社技術に近い領域のより効果的なプロジェクトを支援することが重要であることを示唆している。