ノンテクニカルサマリー

無形資産投資と生産性向上―日韓比較の視点から―

執筆者 Hyunbae CHUN (Sogang University)
宮川 努 (ファカルティフェロー)
Hak Kil PYO (Seoul National University)
外木 好美 (神奈川大学)
研究プロジェクト 日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として」プロジェクト

本論文では、JIPデータベースおよびKIPデータベースをはじめとする日韓の経済統計を利用して、Corrado 達が欧米で計測している無形資産投資の系列を、日本と韓国について推計し、比較分析を行った。

日本の2000年代における無形資産投資は約40兆円である。これはGDPの7.5%である。韓国の無形資産投資は長らく日本を下回っていたが、2000年代のGDP比は7.4%と、ほぼ日本と同規模にまで増加している。無形資産の項目別にみると、両国ともR&D投資の比率が多い。また業種別にみると、製造業では日本が韓国を上回っているが、金融、娯楽、教育などのサービス分野では、韓国の方が、情報化投資が多いこともあって、日本を上回っている。

こうして計測された無形資産を従来の資本、労働力以外の生産要素とみなし、経済成長の要因を各生産要素の寄与に分解する成長会計を実施すると、無形資産の経済成長の寄与は、韓国が日本を上回っている(表1参照)。日本の無形資産の寄与は、韓国だけでなく欧米諸国と比べても最も低い部類に属している。また無形資産を考慮した成長会計と、従来の資本と労働を生産要素とみなした成長会計を比べると、通常技術進歩と解釈される全要素生産性の伸びは、無形資産を考慮した成長会計の方が従来型の成長会計よりも低くなっている。このことは従来技術進歩とみなされていた部分の一部が、無形資産の蓄積によって説明されることを示している。

欧米での研究では、無形資産は、有形資産、特にICT関連資産が生産性の向上に寄与する際に補完的な役割を果たすと考えられている。そこで、R&D資産またはR&D以外の無形資産の伸びとICT資産の伸びに相関があるかどうかを日韓について調べてみた。まず経済全体でこうした補完性が見いだせるかどうかを調べたところ、両国とも90年代には、ICT資産の伸びと無形資産間には補完性があるが、2000年代にはその関係が崩れていることがわかった。また27産業(R&D投資は製造業13産業)について相関性を見たところ、日本では、ICT資産の伸びと無形資産の伸びに連関性は見られなかったが、韓国では、両者の間に強い正の連関性が見られた。日本では、ICT投資と無形資産投資が独立の基準で実施されているのに対し、韓国では、両者は歩調を合わせて伸びている。

このことは、日本の企業がまだ無形資産投資の補完性を認識せず、それぞれの資産について独立した投資決定をしているため、その投資が生産性向上へとつながらないという課題を有していることを示している。したがって、生産性向上を目的とした投資促進策を考える場合、従来型の有形資産中心型から脱却し、より包括的な投資促進策へと転換する必要がある。

表1:無形資産を考慮した経済成長の要因分解
日本韓国
1985-951995-20101985-951995-2010
市場経済
GDP成長率3.03%0.62%9.46%4.32%
労働力投入0.38%-0.37%2.00%0.60%
資本投入2.09%0.61%5.61%2.11%
非ICT有形資産1.00%0.22%3.88%1.33%
ICT0.54%0.29%1.04%0.36%
R&D0.29%0.08%0.30%0.29%
非R&D無形資産0.26%0.02%0.38%0.12%
全要素生産性上昇率0.56%0.38%1.86%1.61%