執筆者 |
Dale W. JORGENSON (ハーバード大学) 野村 浩二 (ファカルティフェロー) Jon D. SAMUELS (米国商務省経済分析局) |
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研究プロジェクト | 日米相対比価体系と国際競争力評価 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日米相対比価体系と国際競争力評価」プロジェクト
1990年代以降、経済の外的環境は大きく変化してきた。中国では改革・開放の始まった1978年にはほぼ100%を占めていた公定価格での中間財取引を1993年には12%へと減少させながら市場経済が浸透した。1人あたり所得が4~5万ドルに達する先進諸国がさらなる所得上昇を実現するためには、こうした環境変化を利用した国際的な生産体制の再構築による、価格競争力の強化が不可欠であった。しかし日本はグローバル化の果実を十分に享受できずにきた。OECD諸国における雇用者1人あたり賃金の変化率をみれば、その多くがこの15年間に5~30%ほど実質所得を増加させた中で、日本の賃金は1997年以降下落を続け9.4%の減少となるなど長期的に賃金が下落した唯一の先進国である。競争相手国が自由貿易協定の締結を急ぎ、労働集約的な生産プロセスを途上国へと移すことで安価な労働コストを享受しているとき、国際的な価格競争力の維持のため、日本のみが賃金を含めた国内でのコスト削減に取り組むことを余儀なくされれば、デフレは必定であったろう。
日本は、労働力や技術知識などの資源をより有効に利用できるよう、過去の成長過程において硬直化した制度や仕組みを見直すときにある。昨年2月、成長戦略を実現する上での司令塔である日本経済再生本部は「産業競争力の強化に関する実行方針」を発表した。しかし新規の成長分野といえども、成長戦略の御旗のもとに補助金など政府による介入を正当化するのであれば、それは新たな硬直をもたらし、多様な技術革新や市場創出の可能性の芽をむしろ摘んでしまう危惧すらある。政府に求められることは、不確実性の高い将来に自らが道筋を選択することではなく、柔軟な競争を可能にするための環境整備である。
今年3月、マッキンゼーは「Future of Japan(生産性向上が導く新たな成長の軌道)」と称したレポートの中で、「日本が付加価値の増大とコスト削減に注力して生産性の伸びを現在の2倍に高めることができれば、経済成長率を年率約3%とすることは可能である」とした。非効率なままに放置されている人的および非人的資源を考慮すれば、世界から見た日本の成長率の可能性は、20年間停滞した日本の内側から見た姿とは大きく異なるのである。そのレポートでは具体的な姿を描写するまでには至らないが、本論文のような半世紀にわたる日米産業間の生産性ギャップと競争力の測定によっては、日本経済がフォーカスすべき分野を知ることができる。
フォーカスすべきは、バイオ、ロボットや水素など、必ずしも夢のある新しい成長分野ではないし、生産性の向上のためには困難で不確実な新しい技術革新が不可欠であるというようなことでもない。長期にわたる日本経済の停滞、そして賃金の下落とは、いわば将来の成長へのエネルギーを蓄積した状態にあることを示している。一国経済における35~40%にもなる労働生産性の劣位こそが日本経済の成長ポテンシャルである。図は2005年における産業間の全要素生産性ギャップ率(左図)と、一国経済への産業別寄与度を示したものである。国際競争に晒されながら、1980年代には米国の生産性水準にキャッチアップし、そして追い抜いた自動車製造業や一次金属製造業に対し、国際競争から保護されてきた農林水産業、電力業そして流通などの生産性の劣位は大きく、一国経済の効率性を改善するために注視すべき重要な部門となっている。太平洋を超えた日米間の競争の半世紀は、両国の経済厚生を高めるために大きく貢献してきた。米国に比して再び格差が開きつつある日本の生産性トレンドを大きく変えるためには、TPPへの参加や農協改革など、競争の促進のためより一層の継続的な努力が不可欠である。
生産性ギャップの縮小に向けたもう1つの鍵は、規制などによって市場へ介入することでもたらされている非効率な資源配分の改善である。電力業では国際水準よりも大きな環境コストを内部化することを迫られ、わずかなエネルギー効率改善のために大きな資本費用を投入してきた。地球温暖化対策としての目標が意識され、省エネ法なども事業会社に対して過度の負担を求めるものとなっている。それらはエネルギー生産性を上昇(エネルギー原単位を低下)させるとしても、資本生産性や労働生産性を低下させてしまう。トータルな競争力が減じられてしまっているのである。劣位にある産業が価格競争力を改善し、日本経済が米国水準のスピードで拡大することが、将来の環境改善への投資を可能とするためにも、安全保障のためにも重要である。競争を促進し、非効率な資源配分を修正しながら、日米間の競争における新時代を迎えることができるか、アベノミクスの正念場である。
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