貿易のための援助とグローバルな成長

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「複雑化するグローバリゼーションのもとでの貿易・産業政策の分析」プロジェクト

「貿易のための援助」(Aid for Trade, AfT)という援助戦略がこの10年ほどOECDやWTOの主導で進められている。2005年のWTO香港閣僚会議で宣言されたこの援助戦略では、AfTが援助受入国の供給能力や貿易関連インフラなどの整備を通じてその貿易を拡大し、経済成長に資することが期待されている。特に、ODA総額の約1/3を占めるAfTのうち半分強は輸送などの経済インフラに支出されているため、AfTが輸送費の変化を通じてどのように援助受入国および供与国の長期的な成長率に影響を与えるかを調べることはAfTの実行にとって重要である。本論文はそのような理論的枠組みを提供する。

援助受入国と供与国の2国を考える。各国には消費と投資(資本蓄積)に用いられる最終財、多数の中間財、資本があり、最終財は多数の中間財から、各中間財は資本から作られる。各中間財の貿易パターンは、2国間の相対資本生産性、相対資本価格、中間財貿易に係る輸送費から決められる。ある国の他の国からの輸入輸送費(これは後者の前者への輸出輸送費でもある)は、輸入国と輸出国それぞれの公共サービスが増えるにつれて下がると考える。このとき、AfTを増やすと、受入国の公共サービスの増加によりその輸入輸送費と輸出輸送費は下がる一方、供与国の公共サービスの減少によりその輸入輸送費と輸出輸送費は上がる。AfTの長期的な成長効果はこのトレードオフに依存する。

図は本論文の主要な結果を要約している。横軸には供与国の援助GDP比率mが、縦軸にはグローバルな成長率(相対資本価格の調整により長期的に両国で均等化された成長率)γj*が測られている。通常、mとγj*の関係を表すグラフは図のように逆U字型になる。当初m=0からmを増やすと、AfTが輸送費を低める力が輸送費を高める力を上回り、グローバルな成長率は高まる。しかしながら、mを増やし続けるにつれて、前者の力は次第に弱まる一方後者の力は次第に強まるので、グラフの傾きは次第に逓減していく。やがて、mがグラフの頂点Bに対応するに達すると、更なるAfTの増加はグローバルな成長率を低めてしまう。このように、AfTによる輸送費の内生的な変化を考慮することによって、有力な実証研究でも支持されている援助と成長の逆U字型仮説を理論的に導出することができた。

それでは、現実の世界は逆U字型グラフのどこにあるのだろうか。世界銀行のWorld Development Indicatorsにおける高所得国グループを援助供与国、中・低所得国グループを援助受入国とみなして試算した結果、成長率を最大化するは約6%強となった。これに対して、現実のOECD諸国全体の援助GDP比率は0.3%強である。つまり、現実の世界は逆U字型グラフの左端に近い点Aにあるので、AfTの更なる増加によってグローバルな成長率を高める余地は十分あるということが理論的に示唆される。

図