ノンテクニカルサマリー

教育財政の資金配分の在り方(教育財政ガバナンス)に関する考察-教育段階を超えた視点も考慮して-

執筆者 赤井 伸郎 (ファカルティフェロー)
末冨 芳 (日本大学)
妹尾 渉 (国立教育政策研究所)
水田 健輔 (東北公益文科大学)
研究プロジェクト 財政的な統一視点(財政制約下の最適資源配分)からみた教育財政ガバナンス・システムの構築
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

人的資本プログラム (第三期:2011~2015年度)
「財政的な統一視点(財政制約下の最適資源配分)からみた教育財政ガバナンス・システムの構築」プロジェクト

今後日本は、人口減少の時代に突入する。限られた人口で経済成長を実現していくためには、何が必要であろうか? 世界には、小さな国であっても、経済成長を続けている国が存在する。何が違うのであろうか。筆者は、その解は、やはり、国を動かす国民自体にあると思う。すなわち、国民がしっかりと国の成長を考え、国を運営することが大切である。そのためには、日本国民それぞれの知識レベル・生産性の引き上げが欠かせない。そのカギとなるのが教育である。そのような思いから、本研究では、学校教育を通じた人的資本の蓄積に向け、限られた資金を最大限有効に活用するための教育財政システム(教育財政ガバナンス)の在り方を検討した。

この研究を行う際に必要なことは、資金がどのように流れているのかの全体像を把握することである。日本の教育に責任を負う文部科学省ですら、また、日本の教育費の配分を決める財務省ですら、その全体像を示せる資料を備えているわけではない。そこで本研究は、スタートとしてその資金の流れを明らかにする取り組みを行った(下図参照)。

資金の流れを踏まえたうえで、次に行うべきことは、どの教育段階(初等義務教育段階(小学校・中学校)、中等教育段階(高等学校)、高等教育段階(大学))に、どのような形で配分すべきであるのかを考えることである。これまでの行政学的アプローチによる分析は、段階別に縦割りになされており、段階を超えた視点での資金配分の在り方は全く議論されていない。そこで本研究では、具体的に、初等中等教育・高等教育でのミクロ配分の分析に加え、これらの教育段階を超えたマクロ配分の視点も含めた効果的資源配分の在り方を探り、教育財政ガバナンス・システムの構築に向けた分析を行った。以下5つの研究内容を紹介する。

第1は、マクロ的視点からの、教育段階を超えた資金配分の実態把握である。これまでは、教育段階を超えて資金がどのように流れているのかを整理した資料は存在せず、本研究での実態把握により、今後の分析にむけた情報の整理が可能となった。第2は、マクロ的視点からの効果分析として、経済成長を高める教育資金配分の在り方の研究である。これまでの研究は、教育段階内での研究しかなく、教育段階を超えた資金配分の在り方は議論できなかった。本研究の結果からは、経済成長にとっては、労働力の量よりも労働力の質がより重要な生産要素となりつつあることが明らかになった。また、異なる教育水準の組み合わせがより重要であることが示唆された。高校進学後の中退者を減少させ、高校卒業者数を相対的に増加させる政策へ重点的に公的教育資源を投入することが重要である可能性が示唆された。今後も、より重点的に投資する教育段階を政策的に見極めることが必要である。第3は、マクロ的視点からの将来資金負担分析として、人口減少が及ぼす財政負担変化の将来予測の分析である。教員の若返り効果はあるものの、人口減少は、学生数を減少させ、規模の経済性の悪化を通じて、学生1人あたりが負担する教育費は増加することが示された。また、その効果は、都道府県間で大きく異なり、将来の財政負担の在り方について、各地域別にきめ細かな制度設計が必要であることが明らかとなった。第4および第5は、ミクロ的視点からの効果の分析である。第4は、成果向上に向けた学校評価と義務教育資金配分の在り方の研究である。海外との制度比較を踏まえ、市町村に着目したデータを初めて用いて分析した結果、評価方式については有意な結果が得られなかったものの、資金配分としての財源保障の重要性は明らかとなった。第5は、ミクロ的視点からの効果分析として、高等教育に対する公財政負担の在り方の研究である。人的資源の調達が研究アウトプットの産出に密接に関連していることが示され、人的資源への資金配分を伴う教育財政ガバナンスの重要性が示唆された。

以上、本研究で行った幅広い研究から、政策にむけて以下の示唆が得られた。

  1. 教育段階を超えた視点での効果分析とその評価に伴う資金配分システム(教育財政ガバナンス)の制度設計が急務である。
  2. 経済成長を高めるのに教育投資は依然として有効な政策であるとともに、高校レベルや高等教育の段階の修了者数への投資に着目することが望ましい。
  3. 確実に教育政策を行っていくためにも、学校の特性を考慮した将来の財政負担を明確にし、財政負担の準備を行っておくことが重要であり、また、地域間格差の考慮も重要である。
  4. 教育成果の向上のため、学校予算の財源保障が重要である。
  5. 人的資源への資金配分を伴う教育財政ガバナンスが重要である。