執筆者 | 宮川 努 (ファカルティフェロー)/Keun LEE (Seoul National University)/枝村 一磨 (科学技術政策研究所)/金 榮愨 (専修大学)/Hosung JUNG (Samsung Economic Research Institute) |
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研究プロジェクト | 日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「日本における無形資産の研究:国際比較及び公的部門の計測を中心として」プロジェクト
問題意識
先進国における経済成長の最大の要因は、生産性の向上だが、この問題を企業レベルで考えるとき、従来は企業のイノベーションが注目されてきた。しかし2000年代の後半から、実は企業組織のあり方も企業のパフォーマンスに大きく影響を与え、各国に特徴的な企業組織が企業レベル、ひいては国レベルの生産性の格差に影響を与えているのではないかという議論が注目されるようになった。本稿では、この分野で先駆的な役割を果たしたBloom and Van Reenen (2007)の企業へのインタビュー調査を日本と韓国で2度実施し、日韓での経営管理の差や、その差が果たして企業パフォーマンスと関連しているのかどうかを検証した。
結果の概要
日韓のインタビュー調査は、2008年および2011-12年の2度にわたって実施された。回答企業数は、日韓合わせて、それぞれの調査で800から900企業である。日本は1回目と2回目で製造業とサービス業の比率が逆転するが、韓国の場合は一貫して製造業の比率が80%前後である。企業規模では、日本の場合中小企業が50%前後であるのに対し、韓国の場合は中小企業が過半を占める。
2回の調査における共通の質問は、組織管理に関して6つ、人的資源管理に関して10である。それぞれの質問について3つの副質問があり、1つ目の質問をクリアしなければ1点、すべての質問をクリアすれば4点となる。したがって、1から4点の間で経営スコアをつけることができる。組織管理に関して経営スコアが高いということは、経営の透明度が高く、末端の従業員に至るまで経営目標が浸透していることになる。人的資源管理に関するスコアが高いということは、従業員のパフォーマンスに応じた処遇や報酬が速やかに決められ、かつ人材育成に熱心であることを示す。
こうして作成された経営スコアを日韓の企業について比較すると、全体としては、両方のインタビュー調査において日本の経営スコアが韓国の経営スコアを上回っている。しかし下表を見ればわかるように、日韓の経営スコアの差は、第2回の調査において著しく縮まっている。特に大企業では、韓国の経営スコアは日本の経営スコアを上回るようになっている。こうした結果は、韓国の企業が日本の企業に経営管理面でもキャッチアップしたことを示している。
日本 | 韓国 | |||
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第1回 | 第2回 | 第1回 | 第2回 | |
全体 | 2.74 (0.23) |
2.57 (0.23) |
2.33 (0.32) |
2.52 (0.38) |
組織管理 | 2.85 (0.31) |
2.69 (0.32) |
2.47 (0.36) |
2.66 (0.48) |
人的資源管理 | 2.56 (0.30) |
2.47 (0.31) |
2.11 (0.46) |
2.42 (0.49) |
注)括弧内は分散値 |
また第2回目の調査では、日韓企業を取り巻く経営環境や意思決定のスピードについても質問を行った。その結果によると、韓国企業の方が海外での市場シェアが大きく、企業目標を変える際の意思決定のスピードが速いという従来の認識が裏付けられた。
この経営スコアが企業の生産性の向上と関連しているかという点を計量的に分析したところ、おおむね経営スコアの高い企業は、生産性も高いということが確認された。
ポリシーインプリケーション
企業レベルでの生産性向上は、経済全体の生産性向上と密接につながっている。本稿の意義は、こうした企業の生産性向上に経営管理のあり方が深く関わっていることを示している。2000年代に入って日本経済全体が伸び悩む中で、政府はサービス生産性協議会などを通して、良いパフォーマンスの企業や積極的に事業を展開し業績をあげている企業の事例を紹介しているが、本稿の分析は、良好な企業パフォーマンスに結び付く組織管理や人的資源管理の要素を探し出す上で一定の貢献があると考えられる。