ノンテクニカルサマリー

消費税の下での公的債務上限の非存在性について

執筆者 小林 慶一郎 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト 公的債務とデフレを中心としたマクロ経済政策の分析
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

国際マクロプログラム (第三期:2011~2015年度)
「公的債務とデフレを中心としたマクロ経済政策の分析」プロジェクト

一種類の生産要素の供給量が固定された閉鎖経済においては、消費税のラッファーカーブは右上がりになり、税率を上げると税収が際限なく増えることが示される。したがって、この経済では、消費税率を適切に選ぶと、どのような大きさの政府債務も持続可能にすることができる。税率を上げると税収が際限なく増える理由は、会計的なものである。消費税収は家計に国債償還などとして返ってきて、それが再び消費に支出されて課税ベースとなる。この循環により、税収は生産量よりも多くなる状態が維持されるのである。

この発見から、日本の公的債務の持続性について、次のような理論的な可能性をいうことができる。どれほど高い公的債務比率であっても、理論的には、適切に消費税率を上げることにより持続可能な状態を維持できる、ということである。つまり、公的債務比率には、理論的には上限はなく、どれほど高くても、持続可能にできる。しかし、この結論はあくまでも理論上のものであり、現実の財政に適用するにはいくつかの重要な留保条件がある。

第1に、仮にこの理論どおりに消費増税によって高い公的債務比率を維持しようとする場合、税による労働供給の歪みの効果によって、労働が減り、国内総生産(GDP)がゼロに漸近していく。そのため、効用水準は限りなくマイナスになっていく。高い公的債務比率を維持することが可能だとしても、それは社会厚生を悪化させるので、望ましい政策ではない。

第2に、このモデルでは、脱税や課税回避の活動(あるいは自給自足という選択肢)が存在しないことを仮定している。しかし、現実には、日本においても、課税回避や自給自足という活動は多く存在しているし、消費税率が何十%にもなれば、脱税や課税回避が非常に活発になり、また、自給自足を選ぶ人が増えると思われる。脱税や課税回避や自給自足を考慮に入れると、消費税のラッファーカーブは右上がりにはならず、一定の上限を持つようになり、この論文の結論は維持されなくなる。

また、いかなる公的債務比率でも維持可能であるとしても、公的債務が発行される原因まで考慮して、社会厚生を最大化する政策を考察することが必要である。

図:消費税のラッファーカーブ
図:消費税のラッファーカーブ