ノンテクニカルサマリー

中国の産業集積とプロダクト・イノベーション

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

貿易投資プログラム (第三期:2011~2015年度)
「グローバルな市場環境と産業成長に関する研究」プロジェクト

集積と企業のパフォーマンスに関する分析は学術的にも政策的にも重要なテーマである。これまで集積と企業の生産性との関係を分析する研究は多いが、集積が企業のプロダクト・イノベーションに与える影響を検証する実証研究は極めて少ない。集積の経済は大きく2つに分類され、地域特化の経済(同一産業の集積のメリット)と都市化の経済(複数の異なる産業の集積のメリット)がある。そこで、本研究は中国製造業企業レベルのデータを用いて、集積が中国企業のプロダクト・イノベーションに対してどのような影響を及ぼすかについて分析したものである。

本研究では、企業データを利用して、2桁産業・市レベルで地域特化・都市化(他産業の規模と多様性)・市場の競争度を測定する。また、プロダクト・イノベーションの指標としては、新製品の導入と生産高などを利用する。新製品の導入は近年中国の産業高度化と経済成長を捉えていると考えられる。記述統計の結果によれば、まず、1998年~2007年の間に、地域特化と都市化の拡大に伴って市場競争が激化していることを確認した。また、新製品の導入に関しては、企業間・産業間・地域間に大きな差があることが判明した。

回帰分析では、全要素生産性などの企業特性および観察のできない企業固定効果をコントロールした上で、地域特化と都市化が新製品導入の確率に与える影響を分析した。基本的な推定結果は別表に要約されている。その結果、地域特化と市場競争が新製品の導入に対して平均して正で統計的に有意な効果はないことが判明した一方、都市化の規模と産業多様性が新製品導入の確率を高めることが明らかになった。さらに、内資企業と外資企業に分けた分析では、都市化の経済はその両者に対する効果が依然としてプラスであるが、地域特化と競争の効果は所有形態によって異なる。地域特化と競争が内資企業の新製品導入に有意な影響を与えていないが、外資企業のそれに対して地域特化が負の効果、競争が正の効果を有していると分かった。その結果から、外資企業の周辺に立地する内資企業による模倣やコピーが外資企業の新製品導入のインセンティブを低めてしまうと考えられる。また、市場競争の激化が生産性の高い外資企業の新製品導入に対して正の影響を与えるが、相対的に生産性の低い内資企業に有意なプラスの効果を及ぼさない可能性がある。

表:推定結果
表:推定結果

本研究の政策的な合意としては、たとえばプロダクト・イノベーションを促進するには、企業を産業多様性のある地域に立地させるように奨励することが考えられる。1995年以降、中国の中央政府と地方政府が60以上の都市で100ぐらいの経済特区(経済と技術開発区、ハイテク産業開発区など)を指定した。多くの経済特区は同一産業内に属する企業が集中して立地するのではなく、さまざまな産業に属する企業が集中して立地する地域である。たとえば、深圳経済特区(広東省)、蘇州工業園区(江蘇省蘇州市)などが挙げられる。本研究の結果から、同一産業の集積よりこうした複数の異なる産業の集積が産業をまたぐ知識のスピルオーバー、アウトソーシングや取引、中間財の調達などを生み出し、新製品導入の固定費用を引き下げ、企業のプロダクト・イノベーションを促進することが期待される。また、こうした効果は内資企業と外資企業の間に差がありうるため、それも含めて検討する必要がある。日本企業にとっては、こうした産業集積の効果や市場条件を十分認識することが今後中国市場における新製品導入などのイノベーション活動にも役に立つと考えられる。