ノンテクニカルサマリー

起業活動と人的資本:RIETI起業家アンケート調査を用いた実証研究

執筆者 馬場 遼太 (東京大学)
元橋 一之 (ファカルティフェロー)
研究プロジェクト オープンイノベーションの国際比較に関する実証研究
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

技術とイノベーションプログラム (第三期:2011~2015年度)
「オープンイノベーションの国際比較に関する実証研究」プロジェクト

日本において起業家精神やベンチャー企業の活動が相対的に弱いといわれているが、その原因としてベンチャーキャピタルの不足や硬直的な労働市場など環境面に着目した議論が多い。その一方で、起業を行う人材の特性について大規模データに基づいて定量的な分析を行ったものは少ない。ここでは経済産業研究所において行われた「起業意識に関するアンケート調査」のデータを用いて、学歴や職歴などを通じて形成される人的資本と起業活動の関係について分析を行った(下図参照)。これまでの多くの研究は「潜在的起業家→起業の実行」や「潜在的起業家→起業の成功」といった下図の破線部について分析したものが多いが、ここでは実線で示したそれぞれの段階ごとに人的資本との関係について分析を行った点に特徴がある。

図

分析の結果、起業に関する計画や実行といった段階においては、大学における課外活動や海外経験などの幅広い分野での経験が重要であることが分かった。しかし、事業の成功については、必ずしも大学における幅広い活動が正の相関関係をもつのではなく、職務経験を通じてマネジメントの経験を積むことが成功につながることが分かった。また、企業経験年数と起業の成功は負の相関関係にあり、多くの企業の経験は職を渡り歩く指向が強い人材であり、起業の成功確率を下げる傾向にあることが分かった。

起業活動により経済活性化を実現するためには、まず起業に対する取り組みの裾野を広げることが重要である。起業に対する計画や実行の確率は、大学における課外活動、特に長期インターンシップやビジネスプランコンテストなどのビジネスとの接点を持つことで上がるので、高等教育において、学生に対して、企業や社会との接点をよりもたせ、また留学制度を充実することが重要であると考えられる。大学の国際化に関する政策は留学生支援が中心となっているが、逆に日本人学生を送り出す双方向の政策が重要であるといえる。また、起業家が事業を成功に導くためには、ジェネラリストというより、むしろビジネスや技術などに対する専門的な知識が必要となる。日本においてビジネスに関する専門的な知識の習得は企業勤務を通じて得られることが多い。従って、企業からのスピンアウトビジネスを逍遥するために年金のポータビリティをはじめとした雇用流動化のための政策や、在職者に対する起業セミナーなどに対する公的支援が重要であるといえる。