ノンテクニカルサマリー

空間的分離と都市構造

執筆者 Pascal MOSSAY (University of Reading and CORE)
Pierre PICARD (University of Luxembourg and CORE)
研究プロジェクト 都市の成長と空間構造に関する理論と実証
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「都市の成長と空間構造に関する理論と実証」プロジェクト

多くの都市では、人口グループはそれぞれ、異なる空間的領域に分かれて居住している。米国では、多くの大都市にチャイナタウンやリトルイタリーなど、特定の民族グループまたは文化的グループの集中度が極めて高い民族居住地が存在する。そうした居住地は、1ブロックの広さの場合もあれば、数平方マイルに及ぶ場合もある。多くの研究者が、そうした空間的分離の主因として、経済的結びつきや社会的相互作用を挙げている。こうした分離は、貧困が存在すると更に拡大する。なぜならば、貧困層の人たちが、同じ民族グループ内にいる方が経済的見通しや社会的関係が向上すると考えているからである。空間的集中はまた、事業活動や職業活動にも影響を及ぼす。金融業、小売業、製造業は多くの場合、異なった産業地区に経済活動の本拠地を置いている。たとえばロサンゼルスでは、映画産業、金融業、ファッション産業、芸術産業が異なる地区に集中立地している。都市経済学者の多くは、このような産業の集中は、同じ産業に属する企業のあいだで便益を及ぼしあうという波及効果によるものだと考えている。

本研究は、内生的な都市地区の出現に起因する空間的分離・集中の理解を深めることを目的としている。我々は、主体者がグループ内社会的相互作用およびグループ間社会的相互作用を行い土地利用および立地を選択する、一次元的都市を分析する。各主体者は、2つの人口グループのいずれかに帰属するという点において、異なる特性を有する。グループ内相互作用は、グループ間相互作用より頻繁に行われるものとする。つまり、主体者は、他のグループの主体者よりも、自分が属する人口グループの主体者と相互作用を頻繁に行うことになる。相互作用に選好性が存在する場合、共通の文化、言語、または民族性を共有する個人間の結びつきが強くなる。また、同じ経済活動に従事している集団の構成員(銀行員、弁護士、デザイナーなど)同士、または同じ経済的立場に属する集団の構成員(就業者、失業者など)同士の職業的結びつきがこのような選好性に反映される。我々の分析が先行研究と異なる点は、都心の外生的存在を仮定しない点にある。各主体者は、直接顔を合わせて相互作用することから便益を受けるために他の主体者と会い、各移動には距離に比例するコストを伴うとした。均衡では、社会的相互作用による便益が、居住コストとアクセスコストとバランスする。

本稿では、両方の人口グループが共存する都市に集中しないことを示す。これは、自己のグループに属する個人との相互作用から得られるリターンの方が高いためである。これを踏まえると、自己の人口グループに帰属する主体者と近いところに移動し、より頻繁に会い、そして移動コストを節約しようとするインセンティブが主体者に働く。

本稿はさらに、2つあるいは3つの地区に分離するという都市構造にハイライトをあてている。主な結果を図1にまとめる。同図は、人口規模の違いとグループ間相互作用の頻度の関数として、生じうる都市構造を示している。人口規模の違いが大きくグループ間相互作用の頻度が多い場合、均衡が成立する都市構造は1つしか出現しない(エリア I)。人口規模の大きいグループが都心に集まり、他のグループが2つの都市周辺に住むという3つの地区から成る都市に、人口はそれぞれ自己組織化する。これが、都市の空間次元に応じた(都心の方が高く、郊外は低い)人口密度を示す絵図によって表現されている。白い部分とグレー部分は、人口が少ないグループと人口が多いグループをそれぞれ表している。

図1:人口規模の違いとグループ間相互作用の頻度の関数としての都市構造
図1:人口規模の違いとグループ間相互作用の頻度の関数としての都市構造

人口規模の違いが小さく、グループ間相互作用の頻度が少ない場合には、2つの都市構造が出現する(エリアII)。先の都市構造に加えて、人口が2つの地区に分離する新たな都市構造が出現する(絵図b)。最後に、人口規模の違いとグループ間相互作用の頻度が更に小さく少ない場合には、3つの都市構造が出現すると考えられる(エリアIII)。先の2つの都市構造に加えて、人口規模の小さいグループが都心に居住するという3地区の都市(絵図c)が出現する。したがって都心には、相互作用の少ない人口が居住する可能性があるのである。

この分析から、同じ経済パラメータが与えられた場合、都市は異なる形で組織される可能性があることがわかる。したがって歴史が、1つまたは別の都市構造の広がりに影響を及ぼす可能性がある。こうした都市パターンは、さまざまな言語、人種、民族グループに関して観察することができる。たとえば、カナダのモントリオールには、フランス語を話すコミュニティと英語を話すコミュニティを区分する東西の境界が存在する。ベルギーのブリュッセルでも、オランダ語コミュニティとフランス語コミュニティの間に同様な境界を観察することができる。パリでは、外国人グループのほとんどが都心から離れた場所に居住地を形成している一方、ニューヨークやデトロイトなどの米国内の都市では、いくつかの小規模な民族・人種グループが都心周辺に居住地を形成している。また、空間的分離は宗教的理由によることもある。アイルランドのベルファストでは、都市の西部は大半がカトリック教徒、東部は大半がプロテスタント教徒で構成される。一般に、都市における人口の空間集積に影響を与える個人の特性としては、職業活動や性的習癖など他にもいくつか挙げられる。