ノンテクニカルサマリー

生産関数における供給要因と需要要因の分解:生産動態統計調査を用いた事業所分析

執筆者 小西 葉子 (研究員)
西山 慶彦 (京都大学)
研究プロジェクト 経済変動の需要要因と供給要因への分解:理論と実証分析
ダウンロード/関連リンク

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

産業・企業生産性向上プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済変動の需要要因と供給要因への分解:理論と実証分析」プロジェクト

わが国の90年代以降は、マイナス成長が続き生産性も著しく低下したといわれている。少子高齢化が進むわが国が持続可能な成長をするためには、生産性の向上は必要不可欠であると認識され、多くの実証研究が行われてきた。標準的な方法として、生産関数を推定して全要素生産性(TFP,Total Factor Productivity)を計測するが、推定されたTFPは深刻なバイアスが生じることがかねてより指摘されてきた。また、生産関数は、理論上は企業の生産活動のみを表し数量データを想定するが、推定する際に用いる実現された生産量には、生産活動に加え市場での流通や販売活動を通じて決定される価格情報を含むことより、需要要因が含まれてしまうという問題がある。そのため、既存の手法により生産性を計測し、生産性の下降が観察された際、その原因が(1)技術力の後退によるものか、(2)需要の縮小によるものかを識別することができない。そこで本研究では、生産関数分析で得られる企業が直面するショックを供給要因、需要要因、その他の要因に分解する方法を提案する。

図1は、各ショックと投入要素と生産量との因果関係を示す。分析の中で、供給ショック(ω)は技術(生産性)進歩とする。企業にとっては、自社のことなのでそのショックは見えやすく、生産性の上昇に対する労働や資本量の調整は比較的行いやすいと考えられる。他方、需要ショック(ξ)はたとえばマクロ経済の停滞などに起因するもので、供給ショックほどには各企業で明確にとらえられず、対応が難しいと考える。たとえば、電気機器メーカーは、今年度の自社TVへの大まかな需要予測を立てることは可能でも、販売台数の増減の具体的なショックを見定めることは難しいだろう。おそらく、ショックが観測されてから(労働や資本のような固定的な)インプットの量を変化させる余裕はなく、現状保持している労働や資本の稼働率で調整することが多いと予想する。その他のショック(ε)は、異常気象や災害、各企業固有の突発的な事故などの誰にも予測不能なショックである。

こういった想定下で、実現された生産量(Y)はインプットの量と全てのショック(供給ショック、需要ショック、その他のショック)に依存して決まるが、企業の生産可能量(Ȳ)を目的変数とする生産関数は、インプットの量と供給ショックのみに依存すると仮定する。このアイデアにより生産性(ω)の直接計測が可能となり、実現された生産量と生産可能量の差と稼働率の情報によって需要ショックとその他のショックも計測できる。

図1:各ショック、インプット投入量と生産量の因果関係
図1:各ショック、インプット投入量と生産量の因果関係

このような分析が可能なのは、経済産業省の『生産動態統計調査』で各事業所の生産能力を表す生産可能量が存在するからである。図2は、ダイカスト製品を製造する事業所について生産関数の推定とショックの分解を行った結果である。期間中、生産性は常に正値となり、リーマンショック時の企業への負のショックは需要ショックに起因することが観察された。今後、この手法の活用により、従来の生産性計測の問題点である、本来は需要刺激政策をとるべきなのに、生産側を補助する(逆もまた同様)という逆の政策をとってしまうというリスクを軽減することが期待される。

図2:ショックの分解(ダイカスト製品)
図2:ショックの分解(ダイカスト製品)