ノンテクニカルサマリー

被災地以外の企業における東日本大震災の影響-サプライチェーンにみる企業間ネットワーク構造とその含意-

このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

地域経済プログラム (第三期:2011~2015年度)
「組織間、発明者間の地理的近接性とネットワーク」プロジェクト

問題意識と研究目的

千年に一度と言われる未曾有の大震災を体験して、被災地以外の企業においても、多くの企業がサプライチェーンの構造を把握する重要性を再認識した。平時においては、取引先の取引先、さらなる取引先を意識した経営戦略を立てることは少ないであろう。日本の産業の競争力は、取引先とのつながりの強さに依存すると考えられてきたが、このような競争力は、震災のように、つながりを断つ現象に対して、脆弱であると考えられる。本研究では、東日本大震災において、被災地以外の企業がどの程度の割合で被災地の企業とつながりを持っているのか、約80万社の企業間の取引関係データを用いて分析した。

分析結果

東日本大震災において、被災地以外の企業が被災地の企業とどのようなつながりを持っているのか分析した結果を、以下の図と表に示している。

図は、被災地企業(赤点)と被災地企業の取引先企業(青点)の地理的な広がりを示している。0次の企業は被災地企業、1次の企業は被災地企業の取引先企業である。被災地企業の取引先企業は、日本全域に広く存在することが確認された。

表は、被災地企業、被災地企業の取引先企業、取引先の取引先企業(2次の企業)などの企業全体に占める割合を地域別に示している。被災地企業の取引先企業は、図のように全国に広がっているものの、その割合は非常に少なく、北海道地方で2.3%、関東地方で2.7%、中部地方で1.1%、中国・四国地方や九州地方で0.5%以下であることが確認された。しかし、被災地企業の取引先の取引先企業まで含めると、北海道地方で60%、関東地方で58%、中部地方で53%、中国・四国地方や九州地方で40%以上となり、多くの企業が関係してくることが分かる。さらなる取引先の企業(3次の企業)まで含めると、すべての地域で9割近くなり、ほとんどの企業が何らかの関係を持つ(注1)。企業間の取引ネットワークが「スモールワールド(小さな世界)」の構造を持っていることを反映している。

インプリケーション

本研究の分析結果から、被災地以外の地域においても、企業自身が認識しないうちに大多数の企業が、取引関係によって何らかの影響を受ける可能性があることが確認された。個々の企業の被害の大きさは、代替不可能な仕入先であるのか、販売の多くを1つの企業に依存しているのかなど、企業間のつながりの強さによって決まってくると考えられる。

東海大地震も遠くない未来におこると予測される状況下で、より安定的な取引ネットワークを構築するためには、異なる地域に複数の取引先を持つなど、長期的観点からリスクを分散させるための対策を考えるべきである。

図:企業の地理的分布
図:企業の地理的分布
表:地域別の企業の割合
表:地域別の企業の割合

脚注

  1. 本稿で用いる取引関係データには、個々の企業に対して、24社を上限として主要な取引先が記載されているが、他社から主要な取引先として記載されることにより、取引先の数が1万を超えるハブ企業が確認される。このようなハブ企業が1万の取引先の影響を受けることは考えにくく、ハブ企業を経由することにより、震災の影響を受けうる企業の割合が過大評価される可能性がある。これを回避するため、震災の影響は主要な取引からのみ波及すると仮定して分析を行ったが、依然として多くの企業が関係する様子が確認された(本文補論C)。