ノンテクニカルサマリー

公的負担と企業行動-企業アンケートに基づく実証分析-

執筆者 小林 庸平 (コンサルティングフェロー)
久米 功一 (名古屋商科大学)
及川 景太 (コンサルティングフェロー)
曽根 哲郎 (コンサルティングフェロー)
研究プロジェクト 経済成長を損なわない財政再建策の検討
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。

社会保障・税財政プログラム (第三期:2011~2015年度)
「経済成長を損なわない財政再建策の検討」プロジェクト

問題意識と分析の概要

急速な少子高齢化社会を迎える我が国にとって財政と社会保障の改革は喫緊の課題だが、税や保険料負担を増加させるにあたっては、経済成長を可能な限り阻害しない形で税や社会保険料の負担を増加させていくことが重要である。経済成長と公的負担増を両立させるためには、経済成長の主たる担い手である企業の行動が、税率や社会保険料率の変化によってどのような影響を受けるのか、ミクロ的な定量分析を行うことが不可欠となる。

企業の公的負担と企業行動に関する国内の研究は、社会保険料の事業主負担が正規労働者の賃金に転嫁されているかを分析するものが中心だった。しかし企業の公的負担は、雇用量や投資に影響を及ぼす可能性がある。また、負担の種類(社会保険料・法人税等)や時間軸(短期・中長期)によっても、その影響は異なる可能性がある。本稿では、アンケート調査と企業活動基本調査の個票をマッチングさせたデータを用いて、公的負担が企業行動に及ぼす幅広い影響を、定量的に検証した。具体的には、企業の公的負担が変化した場合に、(1)正規雇用量で調整、(2)非正規雇用量で調整、(3)設備・研究開発投資で調整、(4)正規賃金で調整、(5)非正規賃金で調整、(6)製品・サービス価格で調整、(7)原材料・仕入れ価格で調整、(8)利益で調整、の8つの調整手段に与える影響を分析した。

分析結果のポイントと政策的インプリケーション

表は、分析結果を整理したものである。表側(行)が変化する公的負担の種類(社会保険料・法人税)・方向(増加・減少)・時間軸(短期・中期)である。表頭(列)は、公的負担が変化したときの上述の8つの調整手段に対応している。主要な分析結果と政策的なインプリケーションは以下の通りである。

(1)社会保険料は正規雇用・賃金への影響が大きく、法人実効税率は設備・研究開発投資に大きな影響を及ぼす。公的負担の増加が非正規雇用・賃金に及ぼす影響は小さいため、公的負担の増加は、正規雇用や投資を抑制し、非正規雇用への代替を進める可能性が高い。
(2)企業は、公的負担の増加に対して短期的には利益の調整で対応しているが、中期的には雇用や投資で調整する。
(3)法人税実効税率の増加局面に比べて、減少局面の方が設備・研究開発投資への影響が大きい。法人実効税率の引き下げは投資を促進する可能性が高い。
(4)非正規比率の高い企業は、非正規雇用・賃金で調整する傾向が強い。非正規比率の高い企業は、市場の不確実性に対応するため、あらかじめ非正規比率を高めている可能性がある。
(5)リーディングカンパニーや賃金の高い企業は、正規雇用・賃金で調整しない傾向があり、効率賃金仮説の成立が示唆される。
(6)パート労働者は正規労働者と補完的な関係があるが、派遣労働者は代替的な関係がある(表では省略)。

表:分析結果の整理
表:分析結果の整理
(注)赤字は公的負担が変化したときに影響が大きな(調整手段として採用する傾向の強い)項目であり、青字は影響が小さな項目。